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あ、好き!これ、好き!!

対象はなんでもいい。食べ物、景色、スポーツ、音楽、友達、恋のお相手… 好きを見つけた瞬間は対象がなんであっても、心が躍る。それが不意に訪れたなら、尚更だ。

先日から村上春樹さん作の “Pinball, 1973” (邦題: 『1973年のピンボール』)を読み始めた。
今回の読書は単語集めも兼ねているため、ハイライター片手に、初めての単語、意味をいまいち把握していない単語は色をつけながら読んでいる。

ちょうど出かけるタイミングで読み始めたので、始めのページを開いたのはバス停だった。バスに乗り込み席に着いた瞬間、慌てた。ペンのお尻に着けていたはずのキャップがない。これから数時間出かけるのにハイライターのキャップ無しとは、致命傷だ。カバンの中がハイライターで真緑になってしまうではないか。まったく、なんてことだ。

バスはもう出発してしまったので、「こんな時に潔く捨てられる人っていいなぁ」なんて思いつつ、本に取りかかる。

日本の文庫本は、目次やはしがきから始まり、本編、あとがき、奥付というのが一般的な構成だと思うが、英文のpaperbackの小説はたいてい、書評、タイトルページや出版情報、献辞等が先にあって、本編に入る。

本を開いてすぐに、私は 好きを見つけてしまった。それも本編に至る前にだ。私の 好き **は書評にあった。何も難しいことが書いてあるわけではなかった。むしろ、その言葉づかいのシンプルさと英語の柔軟さに感動した。**日本語でこんなにシンプルな言葉づかいができるだろうか!

あぁ、だから英語って面白い!!

ハイライターのキャップをなくした落胆などすっかり忘れて、私はバスの中で一人、笑い出しそうになっていた。

その書評というのが、これ。

”Early Murakami isn't Murakami-in-the-making, it's already and entirely Murakami."
----- The Guardian

はーー!なんてかっこいい!!(笑)

ここでの私の感動ポイントは2つ:

① 人名の Murakami を作品の意で扱っている。さらには Murakami-world まで示唆している。(同じ言葉なのに!!)

② ”-” (ハイフン)でつなげて一言にしちゃうシンプルさ。(こんな単純な仕組みで、しかも簡単な単語で、これ言っちゃう??)


これだけじゃ何を言いたいのかはっきりしないのでちゃんと説明します(笑)

① 人名の Murakami を作品の意で扱っている。さらには Murakami-world まで示唆している。(同じ言葉なのに!!)

”Early Murakami **isn't **Murakami-in-the-making, it's already and entirely Murakami."

一つ目の Murakami という単語は作者の村上さんではなく、村上さんの作品をを指しています。これを判断できる材料は、形容詞の”Early”と代名詞の”it”です。

Early という単語は時間の流れの中での早い時間帯を指します。(速いではありません)形容の対象が人物であれば若い、young となるべきですので、これは村上さんではなく作品を指していることになります。
また、後に続く文での代名詞も he ではなく it ですよね。ここからも Murakami の単語が人物を指してはいないと分かります。

では2つ目と3つ目の Murakami はどうでしょう?
同じように作品と取ることもできますが、ここでは Murakami-world と受け取る方が自然だと思います。判断の材料は”in-the-making"と”entirely"。何かしら作り上げられるもの、完全であるものの話をしていますので、一つひとつの作品というより、村上さんの世界観と理解できます。

“Early Murakami” だけであれば村上さんのキャリア初期とも捉えられなくはないと思いますが、後の “entirely Murakami” とつなぎ合わせると、やはり作品として考えるのがしっくりきます。

作者の名前を作品を示すために用いる用法は英語では珍しくありません。文法書にもしっかり書いてあります。
でも、こうして見てみると、作者の名前一つでその作品を指し、世界観を指し、その柔軟さと読み手にとても簡潔に意図を伝えられるすごさに改めて感動したのです。


② ”-” (ハイフン)でつなげて一言にしちゃうシンプルさ。(こんな単純な仕組みで、しかも簡単な単語で、これ言っちゃう??)

”Early Murakami isn't Murakami-in-the-making, it's already and entirely Murakami."

いくつかの単語を”-”でつなげて形容詞のように扱うというのも、英語ではよくあるパターンです。学校などでは、”6-year-old girl" などの例で出てこなかったでしょうか。

ここでの Murakami-in-the-makingは in the process of making Murakami-world の意味。つまり、村上さんの世界観の形成途中、と解釈できます。

でもそんなまどろっこしい言葉は不要!「making の途中にいるよ!」と前置詞の "in" が鮮やかに想像を掻き立て、冠詞の "the" が見事に "making" の名詞化を手伝い、それが形成プロセスを指すことを明確にしています。

こういうの、シンプルで、自由度が高くて、めっちゃ楽しい!


書評の一文にノックアウトされ、さらにはその時聞いていた音楽にも似た用法を見つけてしまい、バスの中一人大興奮、あやうく降りるべきバス停を逃しそうになったのでした。

さてこの興奮は伝わるのか…(笑)


Thanks for reading to the end!

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