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将来、子どもが“成功”をおさめるために必要な力とは? #名著に学ぶ子育て[1]

今回ご紹介する本は、ポール・タフ著『成功する子 失敗する子―何が「その後の人生」を決めるのか

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ポール・タフ氏はアメリカのジャーナリスト。科学的知見や先進的な教育現場を徹底的に調査し、子どもの将来にもっとも影響を与える能力を解き明かしていきます。

その能力とはずばり、“非認知的スキル”。

この本はアメリカはもちろん世界中に大きな影響を与え、日本の教育現場でも“非認知的スキル”が注目されるようになりました。

そんな名著のエッセンスを私なりの解釈でご紹介します。(あくまで私見が入りますのでご容赦ください!)

非認知的スキルとは

幼少期に身につけるべきスキルと聞いて、思い浮かべるものは何でしょうか。語彙力、読み書き、計算能力……? こういったものは本書では“認知的スキル”と呼ばれます。従来の学力テストで計測が可能なものであり、IQに親しい概念です。

しかし本書で明らかになった将来の成功に直結するスキルはやり抜く力、自制心、誠実さ、好奇心、楽観主義(オプティミズム)などの心理上の特質でした。これこそが経済学者のいう“非認知的スキル”。より平たく言うなら”性格における強み”“気質”です。

ちなみに本書でいう”成功”とは、学校のテストで良い点を取るとか、いい大学に入るとか、そういう短期的なものではありません。はたまたスポーツ選手やノーベル賞受賞者になるといった華やかな栄光を指してるわけでもありません。本書の指す”成功”は、大学を卒業して就職することであり、仕事を続けられることであり、年収が高く逮捕歴がないことです。すなわち成人後の人生における自立と安定性と考えていいでしょう。

なぜ非認知的スキルが重要なのか

非認知的スキルに関する重要な研究のひとつに、ノーベル経済学賞受賞のヘックマンのGED研究があります。

GEDとはアメリカなどで行われる高卒認定試験。主に高校中退者が受ける試験で、これに合格すると高卒レベルの学力があるという証明になり、高卒者と同様に大学進学や就職の道が開かれます。

GED合格者はそうでない人に比べてIQが高い(=認知的スキルが高い)ことがわかっていましたが、ヘックマンの研究によれば、その後の年収や失業率、離婚率、違法ドラッグの使用率などは高校中退者と変わらないことがわかりました。つまり、学力があるだけでは高校卒業者と同等の力があるわけではなったのです。

そしてヘックマンは、GEDが測れなかった力を「高校の卒業生が最後まで学校に残るために必要だった心理上の特質である」と結論づけました。

高校を卒業するには、報われることのない退屈な作業を粘り強くやったり、喜びや楽しみを先送りにできる能力、計画に沿ってやり遂げる力、環境への適応能力などが必要です。その力は大学においても仕事においても役立つものであり、その後の年収や仕事の継続率として成果が表れていました。

非認知的スキルを伸ばす方法【幼少期】

非認知的スキルの獲得に効果を発揮するものとして、幼少期における良い親子関係が挙げられています。 

1950〜60年代に欧米おこなわれた有名な研究の一つに「愛着理論(アタッチメントセオリー)」があります。生後まもない乳児を対象とした研究で、泣いたときにすぐに親から抱っこされたりあやされたりと反応を受けた(=親子の愛着形成ができた)乳児のほうが、泣いたときに無視された乳児よりも、1歳になる頃に自立心が強く積極的になったと言います。その傾向は就学前まで続きました。

その後も愛着理論の研究は進み、多くのケースにおいて、乳幼児期に親子の愛着形成ができた子どもたちは就学後も有能であることがわかりました。児童期には友人と親密な関係を築け、自信や好奇心を示し、思春期には複雑な人間関係を上手に切り抜けることができたそうです。

つまり幼少期においては、特に子どもがストレスを受けたとき、親が子どもに関心を寄せ、注意深く、温かく、落ち着いて反応することが大切だと言えるでしょう。

非認知的スキルを伸ばす方法【児童期〜思春期】

非認知的スキルを伸ばすのにもっとも効果的な時期はやはり幼少期だそうですが、環境さえ整えば思春期や成人後に改善することも可能です。

非認知的スキルの中でも特に重要とされているのが「やり抜く力」。この力を育てるには、子どもに見合った逆境と失敗する経験が不可欠だといいます。

子ども自身が失敗とはなにかを体験し、その失敗を対処する方法を学び、そして自力で起き上がる経験をしてこそ、物事をやり抜く力が育ちます。

また何らかの物事を達成するためには、明確な動機付けと持続的な意志が不可欠。(例えば「シェイプアップする」を達成するには、「夏に水着を着るまでに魅力的な身体になりたい」などの動機付けと、「毎日筋トレを続ける」という持続的な意志が必要)ただ、この動機付けがなかなか難しいのが現実です。

例えば「テストで良い点を取ったらご褒美がもらえる」といったような動機付けして短期的に成果をおさめても、成人してテストを受けるような機会がなくなったり、褒美をもらう機会がなくなってしまうとモチベーションが維持できなくなってしまいます。

ではどういった動機付けが正解なのか……じつはこれは本書でも明らかになっていません。ただ一つ言えるのは、効果的な動機付けは子どもの気質によって異なるということ。子どもの気質を見極め、その子にあった動機付けのサポートができるといいのかもしれません。

また、アメリカで行われた中学生を対象とした研究では「知能は改善できる」といったようなメッセージを受け取った生徒のほうが、受け取らなかった生徒よりも成績が向上した、という結果が出ています。本著では、子どもの性格もまた、学力と同じように変えられると述べられています。

能力や気質は向上させられること、これを親が本人以上に強く信じて子どもに伝えていくことが、非認知的スキルの向上に役立つと言えそうです。

子どものためにできること

子どもにはいつも笑顔でいてほしいし、幸せでいてほしい。なにか悲しいことや失敗しそうなことがあったら、つい回避させたいと思うのが親心かもしれません。

でもその”親心”は子どもの人生にとって最良なのか……今一度考え直す必要がありそうです。

子どもに合った逆境を経験できる環境を整える。子どもに合った目標やチャレンジを一緒に探す。あとは子どものチャレンジを応援し、子どもの力を信じ、たとえ失敗しても見届ける。子どもが過度にストレスを受けたときには温かく受け止める。そんな関わり方ができるといいですね。

ここで紹介したのは本書のごく一部のエッセンスです。実際には貧困が子どもに与える影響や、先進的な教育現場で実践されている指導内容、貧困や困難を乗り越えて自ら人生を成功に導こうとする子どもたちの事例などがたくさん紹介されています。膨大な調査のルポタージュなので、子育ての指南書というよりは小説といった感じでしょうか。

子どもにとっても、そして大人になった自分にとってもためになる情報が満載なので、気になる方はぜひ読んでみてください。

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ポール・タフ 著/高山由美子 訳 成功する子 失敗する子―何が「その後の人生」を決めるのか



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