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うつむいてるくらいがちょうどいい

駅までの道を2人で歩く
彼と歩く時は決まって私が3歩先、彼は遅れてついてくる。
「最後くらい並んで歩いたら?」私がそう言うと、彼はそそくさと横に並んだ。
桜の花は散り始め、すっかり暖かくなった3月の終わり頃。
彼は4月から地元を離れて進学する。
なんだか悲しくなってしまって、彼との思い出をふと思い出した。

彼と初めて会ったのは3年前の4月のことでとても昔のようでそう遠くない過去だった。
うつむいて憂鬱そうな彼を初めて見た時の感想は陰キャ、多分仲良くなることはないだろう、そう思っていた。

話したきっかけは委員会だったと思う。
誰もなりたがらない図書委員に私と彼が半ば強制的に入れられた。委員会で話してみると、彼は意外に気さくな人だった。好きな本、音楽、映画。インドア派の私たちは趣味が合った。
クラスではあまり目立たない彼の私だけに見せる笑顔にいつの間にか惹かれていた。

図書委員の時とLINEでしか話さない私たちの学校行事は今思い返すと笑ってしまう。
互いに別々の人たちと行動し、すれ違うと目配せして気まずそうに通り過ぎる。
すれ違う時に彼の顔を見ると安心した。
私にとって彼はしおりみたいだった。

しおりが無くてもページをめくることはできるけど、無いと困ってしまうもの
そんな存在だった。

そんな事を思い出しながら歩いていると、いつの間にか駅に着いていた。
「じゃあ、ここで」
「待って」
彼は立ち止まる、私は言葉を絞り出そうとするけれど、どうしても悲しくなって出てこない。

桜の花が散っている。私は地面に散ってしまった桜に水をやるようにうつむいて泣いてしまった。彼が優しく私の顔を上げようとするけど、私はうつむいたまま前を向けない。
読み終わった本のしおりは次の本へ引き継がれる。そんなことは分かっているはずなのに、ずっと私のしおりでいて欲しいと思ってしまう。
「ちょっといたいし、もっといたいし、ずっといたい」
思いついた言葉を飲み込んだ。
「新しい街でも元気でね」泣きながら精一杯の笑顔で私は前を向いて言う。
笑顔で手を振ってくれると思っていた彼は泣いていた。
「どうして君も泣くの」
笑顔は崩れてしまって、私も泣き出す。
彼は私に顔をうずめて、私は彼を抱き返す。
「笑顔で別れるなんて、無理だね」
鼻をすすりながら私は言う。


私たちには




うつむいてるくらいがちょうどいい

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