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第37回歴史学入門講座「境界史の構想」

今日、オンライン開講となった歴史学入門講座を受講しました。
講師は日本中世史が専門で、「境界」に注目した研究をされている村井章介先生です。個人的には『世界史のなかの戦国日本』などを読んだことがあり、研究内容に興味を持っていました。

村井先生の著書『境界史の構想』で取り上げられた史料をピックアップしてお話をしていただきましたが、非常に興味深かったので備忘録代わりにメモしておきます。

A.坂上田村麻呂の蝦夷討伐

史料:「清水寺縁起絵巻」
◎蝦夷討伐は平安時代初期だが、この史料の成立は16世紀。史実を反映しているとは言えず、神仏の功徳を強調した筋立てになっている。
◎ただし、中世人が境界をどのように認識していたかを知る史料となる。
◎絵巻に描かれている蝦夷は獣のようで、人間扱いではない。

B.鬼界が島

史料:「平家物語」覚一本
◎鹿ケ谷の陰謀の首謀者が流罪になった場所の描写。
◎「人はいるが、本土の人にも似ていない。色は黒く牛のよう。言葉もわからない」などと(今で言うと)差別的な言葉のオンパレード。
◎ただし、「人扱い」している分、上記の蝦夷よりはまし。蝦夷は完全な外の世界だが、鬼界が島はぎりぎり境界の世界だったらしい。硫黄島では、産出する硫黄を求めて商人が渡っていた。
◎「平家物語」長門本によれば、鬼界が島は12の諸島で、5つは日本に従っていたが7つは従っていなかったという。

C.宋朝の商人

史料:「玉葉」
◎宋の二人の商人が、(中国で)狼藉を働いた。宋から通達された大宰府は、彼らをどう処分すべきか困って、都にお伺いを立てた。
◎一人は日本生まれなので、日本が処罰できる。しかしもう一人は宋の生まれなので、日本が自由に処罰できるのか――ということが問題になった。
◎回答は「まず先例を問うべし」だった。

D.明、朝鮮、日本

史料:「朝鮮世祖実録」
◎明から朝鮮に使者が来て、「女真族に勝手に位を与えて通交したのはなぜか」と詰問した。朝鮮は「女真の来訪を許さないとトラブルになるので仕方なく。あいつら野蛮ですから」と釈明。
◎明は「女真が来たら明に報告しろ。明から女真に『行くな』と言っておく」と答えた。
◎朝鮮から見ると「西北は野人(女真)、東南は倭人」という認識。「対馬・壱岐・博多(ないし松浦)三島の倭人」という表現がよく出てくる。

E.尖閣諸島と漢詩

史料:「東瀛百詠」
◎清から琉球を訪れた使節の詠んだ漢詩。出発~到着までの旅を、地名を詠みこんでうたっている。
◎それによれば、台湾がぎりぎり「中華界」(中国の内側)、久米島に来ると「ここから琉球界」。その間の領域(尖閣諸島を含む)は、どちらにも属さない世界だった。
◎近代以前には国境の概念がなく、どちらにも属さない(どちらでもありうる)あいまいな部分があった。現代の領土紛争に、前近代の史料を使って自国の正当性を主張するのは果たして適当なのだろうか。
◎自国に有利な史料だけ取り出すことになるし、相手国もそれをやる。その不毛さを、村井先生は「史料が悲鳴を上げている」と表現する。

中国や韓国の研究者との協同が期待される分野ですが、倭寇などをめぐっては、どうしても感情的しこりもあるそうです。しかし、国家の枠組みから自由になるという意味で、今後も注目すべき研究領域だと思います。

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