無彩色について

「赤、オレンジ、黄色、緑、水色、青、紫」

私とミカコちゃんは昼休みに、教室でファッション雑誌を見ていた。今年の流行色の話から自分の好きな色の話になって、私が黄色と答えるとミカコちゃんは俯いて腕を組んでいた。いつものミカコちゃん式考えるポーズだ。そうしてやっと彼女の口から返ってきた答えがそれだった。
赤、オレンジ、黄色、緑、水色、青、紫。

「多いね」
「虹の色だからね。でも頑張って7色に絞ったんだよ。本当は全部好きって言いたかった。鮮やかな色って全部好き」
「じゃあ全部って言えばいいじゃん」
「それは無理。だって灰色とか黒は嫌いだもの。嫌味な白も嫌い」
「服選ぶの大変そうだね、制服とか白と黒の塊じゃん」
「服はいいの。だって服なら鮮やかな色を引き立たせる脇役になってくれるもの」

あれ、服の話じゃなかったっけ。そう思ったけどミカコちゃんは大人しくかしこまった様子で両手を机の上で組んだ。

「スーちゃん、腐ったみかんって知ってる?」
「ドラマのセリフ?」
「そうじゃなくて、本物の」
「うん、段ボールでみかん買ったら最後の方の底にあるやつとか。白とか緑にカビてた」
「私、あの緑は黒だと思うの。なんにも無い黒」
「ミカコちゃんって目が悪かったっけ?」
「ちがう。信号機の緑を青って言ったりするでしょう。そんな感じで私は腐ったものの緑って黒だと思ってるの」

よく分からない例えだなあ。
でも、とりあえず相槌をうっておいた。

「それで?」
「嫌味な白も灰色も黒も、死んで腐ってる感じがしない?命が抜けちゃった後。腐ってるものって大抵そういう色だから。だから嫌い。鮮やかな色はいいよね、生きてる命って感じで好き」
「白だけなんで嫌味ってつくの?」
「白はねえ、難しいの、ホント。さっきスーちゃんが言ってたみたいにカビの色で白って本当多くて。それが嫌味な白。でもね、服だと白単体だったらワンピースとかレースとかフリルとか、あとウエディングドレスとか、生きてるって力の強い色になるの」
「あれ、また服の話に戻ったの?」
「私はずっと服の話してるよ。まあ、だから私は赤とかオレンジとか、黄色、緑、水色、青、紫が好き。虹の色は全部の色が入ってるとも言われてるから。欲張りセットなの」

ずいぶん脱線していた気がするけどなあ。
予鈴がなり始めた。もうすぐ昼休みが終わる。

「でも私は黒好きだよ」
「さっきは黄色って言ってたじゃないの」
「私バナナ好きなんだよね、バナナカラーだから黄色が好きって言ったの」

私はファッション誌を閉じる。

「それに、バナナは黒くなるまで待った方が栄養があるしね」

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