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永遠に貴方のものだと嘯く花


卒業式が終わって、陽と家に向かっていたら、陽の妹の瑠璃ちゃんが陽の家の前に立っていた。

相変わらず、セーラー服がコスプレみたいで全く似合っていない。

「瑠璃が自分の足で道路に立ってるの久々に見た」

陽は隣で変なことを言っている。

「毎日、通学してるだろ」

「あいつ、よく分からない男に車で送迎させてるから」


相変わらず陽の家族は全員モテすぎて価値観が狂ってしまっている。
いまも陽はブレザーも使っていた鞄もネクタイも他の生徒にあげてしまったので、ワイシャツだけだし、その代わりに卒業祝いに貰った花束やお菓子を事前に持って行っていたスーツケースとエコバッグに入れて帰宅してきた。

俺も一応、ブレザーのボタンは無くなったけど、スーツケースは持って行ってない。


「るり、どうした」


陽が声をかけると、瑠璃ちゃんはいじっていたケータイから目をあげ、陽を見た後、俺を見た。


「ごーきに用があって」

「え、おれ?」

瑠璃ちゃんは俺の制服を見てから少しだけ鼻で笑った後に、俺のネクタイを掴んで解いた。

陽はその様子を横目で見た後、そのまま自宅に入ってしまう。


「え、なになに、瑠璃ちゃん。こわい」

「これちょーだい。その代わり、これあげる」

瑠璃ちゃんはネクタイを解き終わると、ブレザーのポッケの中にキャンディを乱暴に入れた。

「ネクタイ欲しかったの?可愛いとこあるね相変わらず」

「でしょ」


「彼氏いるって、噂で聞いてるけど。
俺、瑠璃ちゃんの恋人に恨まれるのは嫌だよ」


恋人いるなんて、聞いてないけど。
いなかったところを見たことがないから。

とゆうか、どれが恋人なのかは外から見てると、もはや分からないし。


俺もきっと、はたから見たら、その一人な気がするし。


「彼氏がいたら、豪己と親しくしちゃダメなわけ?」

「いや、そんなことはないけど」


「来月から仕事で遠くに行くって聞いた」


俺の家族は警察一家だ。
両親も兄も警察で、俺もそうなることをなんとなく小さい頃から想像していた。

柔道でインターハイに行ったことによって、武道推薦というのを受けることができたし。


「遠く…、まあ確かに。
独身寮に入る予定だけど」

「警察って忙しいんでしょ。
もう当分、会えないよねきっと」

「どうなんだろうな。
少なくとも、今よりは会えないと思う」


「だけど豪己は会えない時も、私のモノだから」


微塵も照れることなく。
まっすぐ目を見たまま、真面目な顔でそう言い切った。

こういうことを色んな人に言ってること、俺は知ってる。


「俺が瑠璃ちゃんのものなら、瑠璃ちゃんもずっと俺のこと考えててな」

「それで怪我せず生きてくれるなら、いいよ」


俺のモノでいてくれるわけがないのに。

彼女のまっすぐな瞳に照れるのが悔しくて、恥ずかしくて。


懸命に強がって、笑いながらそう言う俺を彼女は見透かしたように見つめて、しばらくすると諦めたように鼻で笑った。


「じゃあね、豪己。元気でね」

「瑠璃ちゃんも。
あまり、強がりすぎずにな」

頷くことなく、翻った時に彼女のつけていたバラの香水がかおった。

派手な香りのわりに、上品で艶やかなその香りは彼女のようだった。

永遠に貴方のものだと嘯く花



**

豪己の最後の言葉に応じずに家に入る。

二歳年下の弟の空がたまたま玄関の前にいて、私を見てギョッとした。


「え、瑠璃姉?!泣いてんの?!」

「…泣いてない、花粉のせい」

「いや瑠璃姉、花粉症じゃないじゃん。
どうしたの?なんかあった?」

私の側からいなくならないで。


どうして素直にそう言えないんだろう。


「…何もできなかったし、何もなかったの」


奪い取ったネクタイが空には見えないように、背中で握りしめたその手で、本当はネクタイじゃなくて、豪己を抱きしめたかった。



2024.03.29

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