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【投機の流儀 セレクション】今の相場の基本的なトレンド

2020年3月19日に大底を付けた「コロナショックの大暴落」から1年強で1.8倍になった相場は、1万円の大台を2度超えて1.8倍だったから、或る意味で「大相場」だった。これはコロナショックを収めるために多くの流動性を世の中に出した、このコロナ流動性の相場である。故に、仮称「コロナショック流動性相場」としておこう。これが約1.8倍になって30700円でダブルトップを突いた後、約2年強の往来相場があり、2023年5月から28000円どころを起点として、新しい相場が始まったと見る。

この23年5月から始まった「新しい相場」を、本稿では「日本のメガトレンドの変化を買う相場」としてきた。つまり、30年間のデフレスパイラルに馴らされたデフレマインドが、インフレマインドに変わろうとしている相場である。欧米諸国は「インフレが在る経済」であり、むしろインフレに悩んだのは米国だ。日本は「インフレなき経済」が30年続き、デフレスパイラルに陥った「異常な先進国」だった。これが「普通並みの先進国」に変化する。つまり、デフレ経済から「インフレのある経済」に移ったのだ。

黒田元総裁が力10年力投しても達成できなかった「2%インフレ」が外圧のために起こり
→23年3月に東証の出した企業統治改革勧告に素早く反応した企業群が生産性向上のために投資をし(結果的に「貯蓄から投資へ」が生まれた)
→企業は賃金を30年ぶりに上げた→購買力が上がって消費が上がった(故にGDPが増える=経済成長)
→「2%インフレ」が実現した→34年に、また大企業も中小企業も連年30年ぶりの賃上げを行った、連続2年である→消費が拡大した→企業が値上げすることができるようになった→企業の体質強化が進んだ→賃金がまた上がる。

このようにして「インフレなき異常な国」から「インフレがある普通の国」への変化、及び「30年間賃金上昇しなかった特殊な国」から「少なくとも2年続けて、30年ぶりの賃金アップをした普通の国」への移行。これが岸田政権の言う「成長と分配の好循環」である。

くどくど述べたけれども、ここが大事なところだ。インフレある経済、つまり普通の国の経済への移行、インフレを超える賃金上昇する経済、つまり普通の先進国への移行、これを先取りした株価変動が昨年5月の28000円絡みを起点とした今の相場である。

そして、28000円を1.5倍すると42000円になるので、1月1日の著名人アンケートは「42000円ぐらい」というのが大方の意見だった。これは3月に41000円を超えたので一応は達した。そこで、型通りの調整局面に入った。今の段階は中間反落のプロセスである。どこまで下がるかということは先週号で述べた。主婦はインフレを目の敵にするが(★註1)インフレがなければ、経済成長はない。経済成長がなければ、家計の収入も上がらないし、老後の保証も少ない。

日本は「くたばれGNP」とか、平成4年まではGDPとは言わずにGNPと言ったので、「GNPよりもGNNだ」(義理・人情・浪速節だ)などという言葉が流行った。半世紀も前にアメリカのマイナーな経済学者シューマッハが言った「スモール・イズ・ビューテフル」などという言葉が流行り「小さいことはいいことだ。大きくて強いことは悪いことだ。成長は悪いことだ」などという馬鹿げた考え方が流行った。縮小思考を指向する病である。

人と同じで、国も社会も病む。この状態が30年続いた。日本は高い授業料を払って「経済成長性悪説の過ち」を学んだのだ。昨年5月から脱しようとすることの先見相場が今の相場であると本稿では見てきた。したがって、4月に入ってから始まった調整場面は、あくまでも長期的に見たら中間反落に過ぎない。

日本経済は他の先進国や他の地域と同様に、インフレのある世界に入った。そして、他の先進国と同様に金利のある世界に入った。日銀はマイナス0.1%を0%にしたが、これは0.1%利上げしたということだ。そして、同時に長短金利操作を撤廃した。つまり、普通の先進国に戻ったのだ。そこで、先進国平均より低かったPERとPBRとが先進国並みになろうとしたのが今の株価動向だ。

昨年3月に東京証券取引所が出した企業統治改革要請は企業に直接に効いたし、機関投資家も大いにその影響を受けた。そして、企業への圧力がますます高くなった。「インフレのある人並みの経済」においては、これらの改革を実行できる企業が生き残る。そこで、企業価値の差が生まれ「跛行相場(★註2)」が生まれる。

(★註1)スーパー・ダイエーが1号店を開いた時、上場した時、謳い文句は「インフレと闘う主婦の店ダイエー」と言って大いに受けた。城山三郎の畢生の名著たる企業小説「小説 日本銀行」も「インフレファイター日銀」が主人公の謳い文句だった。今の日銀はデフレファイターである。
黒田元総裁はデフレ脱却のために「何でもやる」「躊躇なくやる」と何度も言い切った。黒田さんの10年間の力闘でもできなかった「2%インフレ目標」は昨年に外圧を借りて(明治維新以来、何回も日本は外圧を進化の契機にすることが上手かった。これをキッシンジャーが日本の不良債権不況の中で述べていた)また、企業の賃上げのお蔭で出来た。黒田さんは「インフレは金融政策だけではできないということ」を10年かかり、壮大な実験の結果で実証した現代史に残る総裁であった。

(★註2)跛行相場という言葉は差別用語になるのか、今は使わないようだ。K字型相場などと判りにくいことを言う。つまり、上に向かう企業群と下に向かう企業群とが別れるという意味だ。昔ながらの分かりやすい言葉で言えば「跛行相場」だ。

【今週号の目次】
第1部;当面の市況
(1)来週は小確りと始まろうが、調整相場は続く。
(2)先々週の下げを「日経平均、春の嵐(週間2455円安)」と言うが、下げ相場らしい顔貌を見せたのは4月17日(水)と4月19日(金)、その二回だけだ。
(3)調整相場、二週間内で起きたこと
(4)「悪い円安」論が出始める段階
(5)円安の好悪両面
(6)日銀が抱える次なる難問と植田総裁
(7)「上がったものは下がる」
(8)例えば、日本製鉄(5401)
(9)日本製鉄(5401)余談─その1

第2部;中長期の見方 
(1)今の相場の基本的なトレンド
(2)新陳代謝がROE上昇を迎える。
(3)小型株に目立つ出遅れ感
(4)「生産性上昇率」と「2%の物価上昇率」を上乗せした「3%のベースアップ」この三つが「2%インフレ」を維持するためにあるべき姿だと日銀は考えている。
(5)小型株への投資─小さなミステリーを集めても、全体の神秘を解くこととはまた別物である。
(6)日経平均の「春の嵐」(週間2455円安)に対し、世界景気を楽観する心理改
(7)日本は大局の変化を見て、買われている相場であるか?NY株の動向を受ける可能性もまた極めて大きい。
(8)投資の「終活」をどう進めるか?─その2(21日号の続きで、筆者のケース)

第3部;読者との交信蘭
罫線版レポート・動画会員O様からのメール(4月19日 急落時に受信)

【プロフィール】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年、同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院教授、同大学名誉教授。大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴57年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。
趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。
著書『投機学入門』『投資詐欺』(講談社)など多数。
ツイッター https://twitter.com/toukinoryugi

【著書】
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