本と大学と図書館と-45-インターネット市民革命 (Fmics Big Egg 2023年1月号)

 1996年は象徴的な年でした。米国のインターネット事情を紹介した,岡部一明『インターネット市民革命:情報化社会・アメリカ編』(御茶の水書房 1996)には,固定料金制の市内電話による「オンラインで話す」という生活パターン,街の公共図書館に設置されたインターネット公共端末からインターネットが無料で使える情報化社会の現状,草の根市民活動が活発な民主主義の国,この3つが詳しく紹介されていました。インターネットが普及すれば,日本も米国のように,図書館が情報アクセスの拠点となって多くの人々でにぎわい,個人による市民活動も活発になって,風通しのよい社会が実現するだろうと,明るい未来を信じ,無邪気に喜びました。
 翌日,横浜のパソコンショップ(ビックカメラの子会社ソフマップ)に駆け込み,Windows95 ノートPCを中古の車が買えるくらいの価格で買い込み,家の固定電話からダイヤルアップでインターネット接続するため,プロバイダー(NECのBIGLOBE)と契約しました。電話代の節約のため,夜中になると電話代が固定になる追加契約(確か2千円/月くらい?)もしました。2ヶ月後には,個人のホームページの名前(「図書館員のためのインターネット」)を決めて,何とかサイトの運営開始にこぎつけました。急いだのは,誰もがサイトを開設し,好きなサイトの名前も先行取得されると思ったからです。
 あれから27年が経ちました。個人サイトの開設はブームにならず,簡便に使えるSNSが主流です。民主主義も市民活動も,引きこもってインターネット会議での交流が主体のせいか,自分の耳には届いていません。
 Free Wi-Fiの使える公共図書館は増え,喫茶店や病院では定番のサービスになっています。地元・藤沢市の公共図書館では,オンラインの商用データベースの「朝日新聞クロスサーチ」,「官報」,「D1-Law.com」が,図書館に出かけさえすれば使えます。自宅から利用できる電子図書サービスも10月から始まりました。しかし,詳述しませんが,日本の公共図書館や自治体のDX化はお寒い限りです。自宅からのリモートアクセスを実現する手立ても聞こえてきません。金がないとか,データベースを提供する業者が対応しないとか,電子図書のコンテンツが少ないとか,できない理由や貧困な現状を,運営主体としての自覚が薄いのか,外部に責任転嫁するばかりです。
 ほとんどの家庭には,PCも,一人1台スマホも,インターネット環境も整っているので,公共サービスとしての需要もないし,優先すべき公共サービスが山積みなのは良く分かります。
 今後の30年間,今ある既存技術の組み合わせで乗り切ればよいと考えた新年でした。

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