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サステイナビリティ思考と名付けた理由

1. サステイナビリティ学を出発点に

このマガジンでは、サステイナビリティを用いた物事の捉え方や戦略の立て方を「サステイナビリティ思考(Sustainability Thinking)」と呼び、この内容をご紹介していきます。初回の記事では、まずこの名前から。そして簡易な定義を示したいと思います。

これから書いていくサステイナビリティ思考に関する記事は、私の専門であるサステイナビリティ学(Sustainability Science)をベースにしています。サステイナビリティ学は、名前に「Science(科学)」と付いているように、対象の持続性について科学的な知見を用いて論じていく学問分野です。サステイナビリティという目的のために、複数の学問分野を積極的に組み合わせる学際的アプローチ(Interdisciplinary Approach)を用いる分野です。

例えば、東京湾の生物多様性について考えようとするとき、海洋生物のことだけでなく、湾岸のインフラ、貨物船の出入港、漁業活動、地域の食文化など、様々なトピックを網羅する必要があります。このとき、生物学や工学だけでなく、経済や流通、地域の歴史についての知識も必要となります。その上で、それぞれの専門的な知識どうしのつながりを理解し、「東京湾の生物多様性」という対象の持続性をどう担保するのかを考えていきます。

このように、異なる分野の知識のつながりを捉え、対象の持続性を達成するために必要な科学的知見を提示するのが、サステイナビリティ学のミッションです。サステイナビリティ学についてのより詳しい説明は、ぜひこちら(サステイナビリティ学とは?)の記事をご覧下さい。

2. 全体のものがたりを見る

サステイナビリティ学の扱う複雑性の高い課題に、研究者がひとりで取り組むということは稀です。なぜなら、東京湾の生物多様性の例で言えば、全体的なテーマとして話せる専門家がいたとしても、その人が関連するすべての専門知識を持ち合わせているということは、そうそうないからです。そのため、サステイナビリティについての研究は、異なる専門分野の研究者が参加して、共同研究として行われることが一般的です。テーマに関連する分野の専門家が集まることで、全体像を捉えようという考え方です。

しかし、こうしてそれぞれの分野の知識を持ち寄っただけでは、実は個別の構成要素のつながりくらいしか見えてきません。このときに必要になるのが、全体のものがたりを見る、ということです。それは「サステイナビリティ(持続性)を維持する」という目的のために、対象を構成する要素のひとつひとつが、全体として1つのシステムとして、どのようにつながっていればよいのかを考えることでもあります。このように、対象をその構成要素の部分に分けて個別に理解していくのではなく、対象の全体性をそのまま捉えることをホリスティック・アプローチ(Holistic Approach)と言います。

こうしたサステイナビリティに関する共同研究のにおいて、サステイナビリティ学の研究者が担う大切な役割の1つが、専門領域の間のコミュニケーションを取り持つことです。そうして生まれたコミュニケーションの全体を、一歩引いた目線から捉えることで、対象全体の持続性のために重要なポイントを見出していく、という役割を担います。

サステイナビリティ思考はこのコミュニケーションを取り持つことや、一歩引いた目線から全体の持続性を考えることを意味します。つまりは、ある特定のテーマについて、関連する情報を集めながら、持続性という目的を達成するために重要なポイントを見出したり、必要な行動を考えていくことが、サステイナビリティ思考(Sustainability Thinking)となります。

サステイナビリティ学は "Science (科学)" であり、「異なる分野の知識のつながりを捉え、対象の持続性を達成するために必要な科学的知見を提示することがミッション」と言いました。これに対して、サステイナビリティ思考は "thinking (考え方)" なので、より日常的な場面での物事の捉え方やプロジェクトの戦略を立てる際に、サステイナビリティ(持続性)を意識して取り込むことができる方法と捉えて頂けたらと思います。

3. 次回:寄りの目線と引きの目線

今回の記事はサステイナビリティ思考という名前と、その簡略な定義についてご紹介しました。次回からより具体的に、サステイナビリティ思考がどのような特徴を持った考え方なのかをお話していきます。

その初回は、「寄りの目線と引きの目線」について。持続性を担保したい対象について、ぐっと寄りの目線でその構成要素について個々に理解を深めていく目線と、引きの目線から全体像を捉える目線の両方がサステイナビリティ思考の出発点となります。こうした虫の目と鳥の目を往来することについて書いて行こうと思います。

次回もぜひお付き合い下さい。



今日のサムネは、2月中旬に飛騨古川に株式会社飛騨の森でクマは踊る(ヒダクマ)のFabCafeを訪ねたときに、近くを散歩していたときに撮った一枚。飛騨はぐるりと広葉樹の森に囲まれていて、森と共に生きる空気に溢れている。冬の冷え込みは、底冷えがして、体の芯から冷える。外の空気は凛としていて、考えごとをしながら散歩するにはとても良い。飛騨は、法隆寺建立の時代から続く林業と木工を中心とした文化資本をビシビシ感じることができるまちで、私がとても好きな場所のひとつ。サステイナビリティ思考のことを考えたとき、概念を説明するアイコニックな画像よりも、この写真がまず思い浮かんだ。今の時期の飛騨の森は新緑に覆われて、感動的にきれいだろう。また考え事をしに行こうと思う。

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