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『私たちのサステイナビリティ - まもり、つくり、次世代につなげる』が刊行されます。

1.書籍刊行のお知らせ

私のnoteでは、サステイナビリティやSDGs、そしてこの分野をより専門的に学びたいと考えている方々にむけて、サステイナビリティ学(Sustainability Science)についての記事を書いてきました。

ちょうど一年前のこの時期に「私の見ているサステイナビリティについての本を書こう」という記事を書きましたが、第1章以降の記事は非公開にしていました。そうしていたのには理由がありまして、それはこの書籍案の内容が、岩波ジュニア新書の書籍として出版されることが決まっていたからでした!

タイトルは『私たちのサステイナビリティ - まもり、つくり、次世代につなげる』です。発売日は2月21日とまだ少し先ですが、Amazonはじめ各ネット書店にて予約受付中です。

サステイナビリティ」という概念をなるべくわかりやすい言葉で紹介することを心がけて書きました。このテーマが気になっているという方々には、ぜひ手にとって頂けると嬉しいです。

というわけで今日のnoteでは、私のはじめて単著となるこの本を書こうと思ったきっかけをご紹介したいと思います。

2.この本を書こうと思ったきっかけ

①バズワード化への危機感。

この本を書こうと思った最初のきっかけは、サステイナビリティがバズワード化されてしまうことへの危機感でした。バズワード(buzzword)とは、「耳障りがよく説得力があるようだけれど、実際にはほとんど中身の言葉」のことで、ブームが過ぎると忘れ去られてしまう流行言、といったニュアンスです。

「サステイナビリティ(sustainability)」はもともと欧米から輸入された言葉ですし、最近では「エシカル(ethical)」や「シェア(share)」などのファッショナブルな言葉と共に使われることが多いので、自然とバズワードになりやすいのかもしれません。

ある言葉がバズワードと見られてしまう背景には、何か新しい言葉が出てきたときに、その言葉が持つ世界観をわかりやすく伝える説明がまだ出てきていないうちに、その言葉の雰囲気だけが世の中に広まりはじめてしまう、ということがあるでしょう。

実際、SDGsが「国連で合意された2030年までの全地球的なアジェンダ」として紹介されている昨今、SDGsの根幹にあるサステイナビリティが理解できていないまま、とにかくがむしゃらに17目標を達成するために手を動かしていく、という状況が生まれているように見えます。

サステイナビリティは、本来は、これからの世界のあり方を考えるときの指針や助けとなる価値観(=ひとつの世界の見方)なのですが、これが曖昧にしか理解できていない状態でとにかくSDGsに取り組むという状況が続くと、やがて起きることはSDGs・サステイナビリティに対する違和感の広まりでしょう。こうした状況を回避するためにも、サステイナビリティをわかりやすく説明した書籍が必要だろうと考えました。

②持続する能力の話が抜け落ちてしまっている。

この本のなかで議論しているポイントの1つに、サステイナビリティの視覚化のことがあります。サステイナビリティの定義を調べてみると、多くの場合に「環境・経済・社会のバランス」として紹介されています(注1)。

ちょうど下のイメージのような具合です。

環境・経済・社会のバランスとしてのサステイナビリティの図解

しかし、サステイナビリティの語源を考えてみると、すぐにこうした視覚化が単純すぎることに気が付きます。サステイナビリティ(sustainability)は、「sustain(持続)する」+「ability(〜する能力)」という2つの語で構成されていますから、ある状態を将来世代に渡って持続する能力のことを意味しているのであって、状態のことではないということがわかります。

つまり、こうした図解はサステイナブルな状態についてのひとつの捉え方を言っているだけであって、本来サステイナビリティの考え方で語られるべき持続するための能力の話が丸々抜け落ちてしまっているのです。

この本では、サステイナビリティを、何かを持続できる「可能性」ではなく、持続していくために必要な「能力」として捉えなおそう、ということを提案しています。和訳の「持続可能性」に引っ張られすぎると、ついつい能力についての話を飛ばしてしまいます。ここのところを注意して、「どんなことを持続していきたいのかを考えて、そうするために必要な能力を育てていく」というコンセプトとして、サステイナビリティを認識して欲しいと思考えています。

③サステイナビリティをわかりやすく説明している本がない。

この本が必要だと強く感じた3つ目の理由は、「サステイナビリティ」と検索したときに出てくる書籍がどれも専門書ばかりで、この概念をわかりやすく説明している本がない、ということでした。これではとっつきにくさを感じられてしまっても仕方がありません(注2)。

対照的にSDGsの場合には、子ども向けの解説本から大人向けの実践編まで、実に多くの書籍が出ており、一種のSDGs関連書籍ブームになっています。このブームについても気をつけておかないと、SDGsの根幹にあるサステイナビリティが「SDGsに取り組むことと同じ」と捉えられてしまうことでしょう。この点にアプローチするためにも、サステイナビリティが、「ストンとわかる」入門書が必要だろうと思いました。

3.サステイナビリティの裾野が広がっていくように

というわけで、この記事では『私たちのサステイナビリティ - まもり、つくり、次世代につなげる』という書籍を書いたきっかけをご紹介しました。

SDGsが認知度を得てきていて、これに取り組むことに積極的な企業や団体、そして若い世代の方々がどんどん増えてきています。サステイナビリティ学の一研究者としてこうした状況は追い風ですから、ぜひサステイナビリティという考え方も合わせて社会にしっかり浸透してくれたらと思っています。この書籍がそうした流れの一助になれば嬉しいです。

SDGsは2030年までのアジェンダとされていますが、この記事を書いている2022年2月から考えると、あと7年10ヶ月の時限付きの目標ということになります。この短期間で17目標を達成しなければならないというプレッシャーよりも、私自身は2030年以降のポストSDGs時代にどのような価値観の実現をサステイナビリティという概念のなかで考えていくのか、ということに関心があります。そして、そのときに自ら考え行動する世代をどのように育成していくのか、ということに注力をしていきたいなと思うのです。

SDGsは次世代のためと言われますが、その次世代は今日も生まれています。彼らが7歳10ヶ月になったとき、私たちは彼らにどんな社会を手渡せるのでしょうか。そのことを考え行動できる能力が、サステイナビリティの本質だと思います。

こうした考え方であるサステイナビリティの裾野が、本書を通じて社会に広まることを願っています。こんなテーマが少しでも気になった方には、ぜひ本書を手にとって頂けると嬉しいです。



*今日のサムネは、私が「次世代」と聞いて最初に思いつく対象である息子が一歳の頃のものを選びました。彼がこの記事を書いている私の年齢になる頃に、彼にとっての次世代に何を持続したいと考え、その実現のためにどんな行動を取るのか、私はとても関心があります。まずはその頃まで、私たち現行世代のあり様について考え、行動していきたいと思うのです。



注1: 例えば、Sustainable Japanというウェブサイトに掲載されているサステイナビリティの定義など。

注2: アマゾンで「サステイナビリティ」と検索すると、サステイナビリティの概念を説明する書籍ではなく、サステイナビリティ学という分野を紹介する書籍が出てきます。かく言う私もこの分野の研究者なので、こうした傾向に対して責任がある立場だと感じつつ、この分野に関心を持ってくれる高校生や大学生、社会人の方々が増えていって欲しいと思うところです。専門的に学ぼうという人にとってはこれらの書籍は有用なのですが、「まずはサステイナビリティがどんな概念なのか知りたい」という入門書を探している方には、今出ている書籍はどれもハードルが高すぎるなと感じます。ちなみに英語の「sustainability」と検索すると、入門書とは言えませんが、この概念について深堀りしていく書籍が出てきます。例えばこのあたり。


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