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「場」のもつチカラ

兵庫県加西市のギャラリー「Void」で開催中の高尾俊介さんの個展「息するコード」のトークイベントに行ってきた。

高尾俊介さん(https://twitter.com/takawo)はプログラムのコードでアートを生み出すジェネラティブアーティストであり、甲南女子大学でプログラミングを教える教育者でもある。ご出身は熊本で、現在は神戸に在住。

そんな高尾さんの作品の魅力を的確に表現する言葉を私はもたないけど、たとえば万華鏡のような鮮やかな色のうねりを見せる作品があれば、Webのチェックボックスを素材に見立てた作品もあるなど見ていて飽きない。どころか目がきょろきょろしてしまう。何よりすごいのは、そうしたアートがプログラムコードで生み出されている点だ。

しかも高尾さんは〝息するように〟デイリーコーディングで毎日1作品ずつつくり続けている。ちょっと本質からはズレるかもしれないが、すでに2000以上にのぼる高尾さんの作品(高尾さんは作品というよりスケッチに近いとおっしゃっていた)の一端に触れ、生物学者の福岡伸一さんが提唱する「動的平衡」を思い出した。高尾さんの一作一作は、まるで脳内から生み出されたジェネラティブアートという名の細胞(?)のように感じたからだ。毎日一つずつ新たに生成しながらも全体としてはアート作品の総体であり、その全体像は日々生み出されていく新しい作品=細胞によって変化を続けていく。その時間軸の在り方に、細胞が生まれ変わりながら均衡を保つ動的平衡に近いものがあるのかもと勝手に思ったのだ。あくまで個人的感想。

そんな高尾さんのトーク相手は編集者の庄野祐輔さん。庄野さんはカルチャー誌「MASSAGE MAGAZINE」(https://twitter.com/themassagejp)の編集長であり、NFTやデジタルアート、インターネットカルチャーの最前線や最深部を追いかけている方。なんとご出身は兵庫県三木市(加東市や加西市と同じ北播磨エリア)とのこと。保守的な田舎から逃げるように東京に出たとのことだった。

高尾さんのデイリーコーディングを俳句のようなフォーマットとおっしゃったり、コーディングを楽器やラップと表現したりと、庄野さんの言葉の一つひとつは高尾さんの活動を編集し、抽象化してわかりやすく伝えてくれる翻訳のようで勉強になった。同じ編集者として。

今回のトークライブでジェネラティブアートやNFTの世界に少しだけ触れる貴重な経験をさせていただけて嬉しかったが、私はローカルを拠点に活動するひとりとして違うところにも感動した。

それは、インターネットカルチャーの最前線の話を加西市というローカル地域で共有できたこと。

トークライブでも、緑豊かな加西市でこうした場があることが逆に最前線、東京にはなかなかない、と話されていて嬉しかった。

Voidはさまざまなアーティストを招へいした個展やイベントをひんぱんに開催している。そして感度の高い人たち、感度の合う人たちが日本中から(ときに海外からも?)加西市にやって来る。

Voidという場は、従来の田舎の寄合いといった地域コミュニティとは異なる。ご近所さんや地縁血縁に縛られない、たとえるなら「ローカル・インディペンデント」とよべるような場所。

サードプレイスや共有地(コモン)ともニュアンスが違う。地元の人たちからは得体の知れない場所と思われているかもしれないけれど、特定の価値観や文化的素養をもつ人たちからは強烈に支持される場所。その磁力のおよぶ範囲はネットのチカラを得て世界に広がる。

こんな磁場がひとつあるだけで、田舎の景色はきっと変わる。

そう思わせてくれた一日だった。

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