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名をもたぬ 京の桜はなかりけり

3月末、京都にある義実家を訪れた。
今年は遅咲きだったので桜は諦めていたけれど、思いがけず満開の枝垂れ桜を見ることができて幸運だった。

桜の時期に京都を訪れると、義父が桜の名所に案内してくれる。400本もの桜が咲き誇る平野神社や、伝説の桜守・佐野藤右衛門さんの私邸「植藤造園」など、思い出の場所がたくさんあるが、今回は京都一の早咲きで知られる「近衛邸の糸桜」を訪れた。


❏京都帰省はいつも、お墓参りからスタート

八坂神社の裏手の、京都の街を一望できる高台に、旦那さんのご先祖様のお墓はある。その日はよく晴れて、京都タワーがくっきり見えた。

「皆が無事に、日本へ帰ってきてくれて良かったですねぇ」。そんな風に語りかけながら、義母は柄杓で墓石に水を流している。亡き義両親(旦那さんの祖父母)に、来ましたよと知らせているのだろう。その一連の仕草がなんとも自然で好ましかった。

無事にお墓参りを終えて、円山公園を歩いていると、枝垂れ桜が見え始めた。「あら!?咲いてるやん!」と義母。

与謝野晶子も愛した祇園枝垂れ桜。

ソメイヨシノも素敵だけれど、京都で一番心を揺さぶられるのは、何と言っても枝垂れ桜だ。

薄紅色の花が、かんざしみたいに揺れて、周囲を艶やかな色彩で満たす。その魅力は格別。

こちらは満開。枝垂れ桜は京都府花にも指定されている。
屋台がたくさん出ていたので、チーズフランクフルトとコーヒーを頂きながら急遽お花見。

義妹が、ご主人の転勤にともなって東京へ転居したばかりのころ、「京都にいた頃は、桜が目ぇの高さにあったけど、東京やと上見やなあかんから、首が疲れるわ」と話していた。

確かに関東の住宅街にある「桜並木」は、車道沿いに植えられていることが多いせいか花が高い位置にあるので、どうしても見上げる角度になる。

一方、京都では歩行者目線の高さに咲く枝垂れ桜が多い。そしてソメイヨシノも車道沿いより歩道沿いに多く、枝が低い位置にも伸びている気がする。

❏室町時代より京都人に愛される枝垂れ桜

今回は所用でお留守番だった義父が、お墓参りの帰りに桜を見ておいでと勧めてくれた。

たぶん近衛の糸桜なら咲いてるやろ。おばあちゃん(義父のお母様)も好きやったわ」。

近衛の糸桜とは、公家の家格の頂点に立った近衛家が所有していた、有名な枝垂れ桜(糸桜は枝垂れ桜の別称)。現在は、京都御苑に遺された近衛邸の跡地で見ることができる。

なんと室町時代の京都市街の様子を描いた「洛中洛外図屏風」の近衛邸の庭には枝垂れ桜がちゃんと描かれているし、能『西行桜』でも「先ず初花を告ぐるなる近衛殿の糸桜」というセリフが登場するほど。

近衛家のトレードマークとして、どこよりも早く開花を告げる見事な枝垂れ桜として、近衛の糸桜は京都の人々に長く愛されてきたのがよく分かる。

遠目で見ると幾重にも白い糸が垂れ下がっているようにも見えることから、糸桜と呼ばれるのだとか。
池のある庭園。池は近衛邸の庭園の名残り。

名をもたぬ 京の桜はなかりけり、とは正岡子規の句だが、京都の桜にはそれぞれ悠久の時を超えた物語が存在するから面白い。

❏寄り道:笹屋伊織の和カフェ

老舗和菓子店の笹屋伊織さんが、近衛邸の休憩所に併設という形で、2年前にオープンしたカフェ「SASAYAIORI+ 京都御苑」にちょっと寄り道を。

大きな暖簾がカッコイイ
三面ガラス張りの休憩所。枝垂れ桜を眺めつつお茶できる。
抹茶とバニラのミックス。かなり濃厚で食べ応えあり。他には和菓子とお茶のセットや抹茶パフェ、アイスどら焼きなども楽しめる。

❏さらに寄り道:錦市場の京都有次

京都訪問時には必ず寄ってしまう京都有次。料理を格上げしてくれる選りすぐりのキッチン道具達をいつも少しずつ連れ帰っている。今回は味噌漉しとトングを。

隅々まで洗練されたフォルムに惚れ惚れ。

ここの両手鍋と落し蓋で煮物をつくると、仕上がりが甘くまろやかになる気がする(主観ですが)。味噌漉しとトングの使い心地は、また後日。

皆さま引き続き素敵な春をお過ごしください。

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