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【短編小説】 彼の部屋の扉は、

きょうは初めて彼の部屋に行く。

ドキドキが止まらない。

彼は急な仕事で会社に行っている。

けど、予めスペアのカードキーを貰っている。

スマホの地図で位置を確認しながら彼の部屋を目指す。


「えっと、この信号を渡って・・・」

押しボタン式信号。

車はまばらにしか走って来ないけどボタンを押す私。

ポチっと押して十数秒。

赤から青に変わった瞬間。

歩行者信号用の音楽が流れて来た。

定番の「とおりゃんせ」では無くて、これは・・・?

「ワラフィーリンッ テッキョーパッショーン♪」

道路の向こうから、どこからともなくダンサーが現れて、

激しくダンスを踊りながらこちら側へ信号を渡って来る。

後ろからCA風の女性たちがカートを引きながら私を追い越していく。

わたしはダンサーの波をかき分けて信号を渡り切った。

振り向くと、薔薇を持った男性にダンサーが群がっている。

CA風の女性たちは幼児が飛行機型の足漕ぎ車を漕ぐ横を

颯爽と歩いて行く。


「なに、あれ・・」

違うドキドキが胸を打つ。

スマホの地図が彼のマンションを指し示す。

「ラグジュアリーハウス」

フロントのオートロックに彼の部屋番号を打ち込む。

「1129号室」

イ・イ・ニ・ク

今夜は彼とすきやきパーティ。


エレベーターホールでボタンを押す。

34階で止まっていたエレベーターが順当に降りて来る。

1階に到着。

チーンっと、扉が開く。

今時見たことの無い聖子ちゃんカットの女性。

「SUMMER」とプリントされたトレーナーを着ている

ポンポンを持った女性たちと華やかに歌い踊っている。

今は、冬。

寒さを感じさせない熱気を身に纏いながら降りてくる彼女たち。

聖子ちゃんカットの女性は手のひらをこちらに向けながら、

ヒラヒラと子気味良く振って去っていった。

入れ違いにわたしはエレベーターへ乗り込む。


音も無く静かに上昇するエレベーター。

「どんなお部屋なのかな?」

どんどん高まる鼓動。

11階でエレベーターは止まり、扉が開く。


1101号室から1115室は降りて左手方面。

彼の部屋は右手方面。

「1129」と打刻された玄関ドアの前に立つ。

いないって分かってる。

けど、一応チャイムを押してみようかな。

遊び心が1回、チャイムを鳴らす。

「チリン・・」

扉を開けた先に、


「ババア」がいた。



参考映像。

いらんがな。


た・べ・た・い♥



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