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9月1日の朝から逃げつづけた足で、いま立っている。

兄は大学を2回中退し、わたしは高校を1年で中退し、弟は中学で不登校になった。

『学校に行かないこと』は、いまだに世間では大ごとと捉えられがちだけど、子供たち全員が学校から逃げてしまった家庭もある。
実際、ここに。

(親よ、ごめん・ありがとうと先に書いておこう…)

◇◇◇

わたしは、高校に1年だけ通って中退した。

周囲からは恐らく、『普通の生徒』と思われていた。

ただ、『普通の生徒でいつづけるための我慢』が、学校に通った10年分きっちり溜まってしまって、自分のキャパシティを超えたのだと思う。

着たくもない制服を着て、意味のわかんない校則を守って、それなりに勉強して、周囲から浮かないようにタイミングを合わせて笑う。

それらがどのように自分の未来に繋がるのか理解できなかったし、周囲の大人からも明確な答えは得られなかった。

思考を止めて、学校と家を往復する。
それだけのことが、目の前が真暗になるくらい苦しかった。

学校を1週間無断でさぼった。
自室で膝を抱えながら、自分がなぜ涙を流しているのか、理由はわからなかったけれど、「もう限界だ」ということはわかった。

「どうして辞めたいの?」親や教師の質問にうまく答えることができなくて、「学校の外の世界を見てみたい」と、どこかで拾ってきたような言葉を繰り返した。

それも嘘ではなかったけれど、わたしはただ、あの狭く息苦しい教室から逃げ出したかった。

◇◇◇

わたしは高校を辞めてから、大検を取得して大学へ行って、留学して、就職して、結婚する。

その間、「高校中退」という経歴に、折々で向き合ってきた。
履歴書を書くとき、就職面接、高校の修学旅行どこ行った?という雑談…

すこしの劣等感を隠して、「高校は卒業していないんです」と笑顔で答える。雑談なら大抵それ以上はツッコまれないし、就活ならそれを補う資格や経歴があればいい。

簡単だ、とは言わないけれど、自分の人生の舵を握り続けることができれば、乗りこえられない困難ではないと思う。

(余談だけど、自分の好きな勉強に打ちこめるので、大学は楽しかった)

◇◇◇

兄と弟の、その後の人生をすこしだけ。

大学から逃げた兄は就職後、独立して自営業をはじめ、そこに取材に来た女性と恋に落ちて結婚し、2人の子供に恵まれる。

中学から逃げた弟は、定時制・通信制を選択できる高校へ進み、第一志望だった大学を卒業後、現在は大学院へ通っている。

ごくごく平凡で、それなりに幸せな人生。

「学校辞めたら人生終わり」
そう思っていたけれど、学校から逃げたわたしたち3人は、今もふつうに生きている。

(親は散々泣かせてしまったけど、生きていれば、別の形で愛情を返せる日がくる)

◇◇◇

ここまで、「わたしは学校を辞めても生きてこられた」という話を書いてきたけれど、「学校嫌なら、みんな辞めよう!」とは、思っていない。

大人になって考えてみると「学校」って、効率的に自分の可能性に出会うためには、よくできたプログラムだ。
通えるなら通っといたほうが、その後の人生がラクなのは事実だと思う。

だけどもし、学校のちいさな教室で、息をするのも苦しくてもがいている学生さんがいるなら。「他にも選択肢はあるかもよ」ってことだけは、伝えたい。

わたしが提示できるのは、「学校から逃げたあとも生き延びている大人がいて、今のところ自分の人生に満足している」っていう事実のみで、なんの保証もあげられないのが申し訳ないけれど。


夏休みの最後、8月31日の夜。
その一晩で、なにかを決断しなくてもいい。
学校からちょっとだけ逃げて戻っても、逃げつづけて大人になってもいい。

自分の手のなかの「選択肢」が、ひとつだけではないかもしれない。
どうかそのことだけは、頭の片隅に置いといて欲しいと、おばちゃんは思うんだ。


お読み頂き、ありがとうございました。 読んでくれる方がいるだけで、めっちゃ嬉しいです!