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午前3時のティータイム

午前3時のティータイム。お気に入りの音楽をかけながら踊る夜。紅茶からはローズとカモミールの香りがして、その隣にはアルフォート。たった100円で幸せになれるなら、安いもんだとかじりつく。

世の中には「幸せになる方法」が溢れてる。痩せること、可愛くなること、素敵な男を捕まえること、お金持ちになること。毎日SNSにはそんなメソッドが流れてきては、わたしたちを狂わせる。濁ってしまう目つき、乾いてゆくこころ。"求めよ、さらば与えられん"なんて言葉もあるけれど、この世界は求めれば求めるほど、遠くなっていく。

びゅんびゅん過ぎ去る日々の中で、化粧を落とすこともできず寝落ちするソファ。ご飯も適当になるばかりで、いつのまにか温かいものも飲んでいない。最近観た映画はなんだっけ、読んだ本はなんだっけ。ビジネス書と下世話な話で溢れる電車の吊り革を見ては、心がすり減る毎日。

だから、今日はあったかい紅茶を淹れよう。夜更かしをして、昔好きだった映画を観よう。バカみたいに泣いて笑って、お気に入りの曲をかけよう。この人生は、"わたし"が主人公の映画だから。世界一イケてるダンスを踊るわたし、シンデレラなんか目じゃないよ。0時をまわっても解けない魔法を、わたしは自分でかけるから。だいすきなお洋服、だいすきな音楽、だいすきな映画、だいすきな本。そして、だいすきな人。ゆっくりでいい、思い出そう。ろうそくに灯った火は、ゆらめいてる。まだ消えない灯り、夜はこれからだ。



"結婚してもなにも変わらない"と言うひとがたまにいるけれど、それは嘘だ。やっぱり、パートナーとの時間が最優先だし、友人たちとも自然に距離ができてしまう。それは悲しいことではないけれど、少し寂しいことではある。

パートナーが単身赴任したのをきっかけに、久々に友人たちに電話をした。みんな快く出てくれて「久しぶり〜!!!」のびっくりマークの多さが、わたしへの想いを物語る。嬉しいな、と素直に思った。距離も時間もあいてしまっても、一瞬で昔に戻れる友だちは本当に貴重だ。この時代、大切なものはたくさんあるけれど、友人に代えられるものは何一つとしてないと思う。近況報告をしあっては、変わった自分たちを見下ろして笑い合う。でも笑い声はやっぱり何も変わらなくて、愛おしい。

わたしにとって、人生の転換期。そんな風に最近思うようになった。ひとりの自分を見つめて、ひとりの時間と向き合って。そんなことを話していたら、自然と涙がこぼれ落ちていて「わたし、少し無理してたかも、」なんて言葉もこぼれ落ちる。そんなわたしを優しく包んで、電話越しにハグをしてくれるみんな。「ねえ、みんな、あなたの味方だよ」優しい声にまた涙が出そうになるけれど、こころがあったかくて自然と微笑んでいた。

「どんな決断をしても、どんな人生を歩んでも。ずっとあなたの味方だし、あなたを応援しているよ」

そう言ってくれるひとがいることの喜びを感じて、生きていてよかったなあと、また泣いてしまう。

高校時代、素直になれずにぶつかることも多かった。あの頃背伸びをしていたかかとをおろして、等身大になったわたしたちは、もうきっと肩を並べてる。一緒に肩を組んで、険しい"人生"という名の道を歩いてる。距離なんて関係ない、だってこころはいつも隣同士。自然と湧いてくる勇気に、わたしはただありがとう、と言いたくなった。



元彼にも電話をした。バカみたい、と思ったでしょ?わたしも思った。でもずいぶん昔に付き合っていた彼が、なんだか懐かしくなって電話をしちゃったのだ。(そんな夜があってもいいよね)

高校時代の彼と久しぶりに電話をした話を、こっそりこないだエッセイに書いたのだけど、その彼との2回目の電話。結構間が空いてしまったのだけど、たぶん、二人してどうしたらいいかわからなかったのだ。距離の詰めかたもわからず、どんな気持ちで向き合えばいいかわからず。忙しいのもあったけど、きっと戸惑っていた。

ようやく取り付けた約束は、やっぱり「お、おう…」みたいな距離感から始まった。でも話してるうちに楽しくなって、相変わらず私の名前を呼んでくれないことを怒ったりした。

お互い好きかどうかなんてどうでもいい、なんて久しぶりに思った。ただわたしは彼が大切で、きっと彼にとっても大切なひと。それだけで、十分幸せだ。

「あなたのことを書いたんだよ」と、照れながら、でも誇り高く彼に見せたエッセイ。放送部だったわたしたち、彼の朗読が久しぶりに聴きたくなって、読んでよ!とねだる真夜中。「…笑うなよ…!」という一言で始まった朗読は、ほんとうに穏やかで美しく、まるで子守唄みたい。ああこの声、この語り口を好きになったんだったなあ、と胸がくすぐったくなる。

そのうち、彼に言わずに書いてしまったパートが出てきて、ごめん…と小さな声で言うわたし。朗読後に笑った彼は、書いてくれて嬉しい、とだけそっと言った。

そして、いつのまにかわたしの文章を読み進めていた彼。久しぶりに文章を読んだ、と読書好きだった彼には珍しい発言で、彼の忙しい日常を想う。「これ、本屋さんに並んでても俺、気づかないよ」そんな褒め言葉で有頂天になるわたし、書き物を生業としてますから!なんて照れて口走ったけど、ほんとうはまだ見習いだ。

"記憶の中の俺がこんなやつだったなら、きっとこれからの人生、もっと素敵になるよね"

あとでくれたLINEに刻まれた文字を、何度も読み返す。誰かを幸せにする文章を書けているなら、きっと、わたしはまだ書ける。久しぶりに呼んでくれた名前を、ぎゅっと目に焼き付けては、世界にわたしの名を呼んでくれるひとのいる幸せを噛み締める。

こうやって、ひとつひとつわたしのハートは満たされてゆく。愛のガソリン満タンのハートで、まだ先へ、先へ。



先週電話をしたのは、友人である歌人の男の子。久しぶり話す彼の声は何も変わっていなくて、二人でただ言葉を交わし合う。言葉を大切にしているひとが、ただ言葉を愛しつづけていること。今も言葉を詠みつづけていることを知れただけで、わたしは簡単にこの世界の価値を感じる。

まるで歌を詠むように、詩を詠うように交わす言葉たちは、たぶん宝石よりもきらめいていた。「誰にも見せてないんです」と言いながら見せてくれた歌集は、言葉ひとつひとつが輝いている。まるで閃光のような光が、わたしのこころを射抜いてゆく。日常を彼の瞳で切り取れば、こんな言葉が生まれてゆく。その美しさにクラクラしながら、また二人で歌を詠もう、と約束をする。



愛を伝えたい、と思っても、わたしたちが選んでしまう言葉は「愛してる」だ。でも、愛してるを細部まで、あなたのこころに届けたくて、わたしは言葉を紡いでいる。

無駄だと、道楽だと笑われることもある。けれど、たくさんの言葉で、たくさんの表現で。このきらめきと愛を言葉にするために、わたしは今日もことばの海へと潜ってゆく。

孤独と手をつないで、悲しみを抱きしめて。

その先に愛が待っていると知っているから、信じているから。言葉の雨に打たれながら、涙を流すように言葉を紡ぐ。

あなたのこころに愛が届くまで、わたしは諦めずにいようと思う。あなたが生きていることが、わたしが言葉を紡ぐ理由。信じられなくてもいい、わたしはあなたの友だちになりたい。

わたしの周りに素敵なひとが溢れているのは、わたしが素敵だから。そしてわたしの言葉にこころを動かしてくれるのは、あなたが素敵だから。

そう信じて、照れながら生きてこうよ。

今日はウォールフラワーというわたしが初めてミニシアターで観た、大切な宝物の映画を久しぶりに観たよ。

「なぜやさしい人たちは間違った相手とデートを?」
「自分に見合うと思っているからだよ」

この言葉が今のわたしに深く刺さって、あの頃刺さらなかった言葉も、歳をとって新しく出会えることもあるのだな、と感慨深かったよ。

だから、あの頃好きだった映画も、好きだった音楽も。変わってしまった自分だからこそ、新しい発見があるかもしれない。

あなたの"好き"を大切にしてね。そしてなによりも、自分を"好き"でいてね。

あなたが好きな自分になれますように。

今日の流星群に願いを込めて。

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