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英語で伝えなくてもよかった母の失敗談

私の母は、英語検定2級を保持している。


小学生の頃から、教育熱心であった親の意向により、英才教育の一環として近所にあった塾に通わされていたという。

当時、母の通っていた学校では履修科目に英語は含まれていなかったものの、通っていた塾には英語に強い講師がいたそうだ。

その後押しもあって中学3年に進級すると、現在もなお比較的難易度が高いとされている英語検定2級に合格したのであった。

これを機に英語が得意であると自信を高めていくのだが、ある出来事を境にその自尊心は一気に崩れてしまう他、この先も延々と語り続けるほどのお笑い種エピソードと化してしまったのである。


十数年の歳月を経て迎えた父と母の新婚旅行は、オーストラリアのシドニーを目的地に選んだ。そこでオペラハウスをはじめとする、有名な観光名所を巡っていた。 

やがてその日の観光を終えた二人は、宿泊先であるラマダホテルに向かうべく、タクシーに乗り込もうとする。

運転手さんから「どちらまで?」と片言の日本語で行き先を尋ねられると、母は英検2級を保持している強みを生かし「ラムァ~ダ、ホトゥエ~ル」と流暢りゅうちょうっぽい英語で伝えた。


すると運転手さんは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で「ハァ?」と返した。


こちらの英語がさっぱり聞き取れないのか、或いはほとんど通じていないのか。想定外の反応を前に、母は思わず青ざめてしまった。

英語が伝わっていない云々より、運転手さんがラマダホテルの場所自体を知らないのかと、いろいろ疑問に思っていたらしい。

動揺している母に代わって父が「ラ、マ、ダ、ホ、テ、ル」と、先ほどのネイティブじみた英語とは打って変わって、はっきりと日本語で伝えたのである。

それになぜか通じたらしく、先ほどまで固まっていた運転手さんの表情は一変し「OK!」とすぐに答えた。そして二人を乗せたタクシーはすぐさま、ラマダホテルへと向かっていくのだった。


目的地に着くまでの間、母は自身の英検2級保持の強みがまったく生かされていないことに落胆してしまう。そのうえ、わざわざ英語で伝えなくても始めから普通に日本語で話せば良かったと赤っ恥をかいていた。

その隣で父は「おかしいなぁ〜、英検2級持っているのになぁ〜」と苦笑している。この時助け舟を出して株を上げた父であるが、そもそも母に英語で伝えるよう働きかけたのも父だったそうだ。

こうして勃発した珍事件(?)により、英語検定2級に合格したからといって必ずしも会話が通用するとは限らないと、母は一生に一度の新婚旅行で身を持って経験してしまうのであった。


「…っていう出来事があってね、もう忘れられないよ~」

数十年を経て、面白い出来事へと変貌したに違いない。母はケラケラと笑いながら、当時ものすごく恥ずかしかった珍事件なるエピソードを、今も楽しそうに話し続けている。


因みに後々になって調べてみてわかったのだが、そのラマダホテルは現地のみならず、日本を含む60カ国以上で展開されている多国籍ホテルチェーンであることを、母は全く知らずにいたのだった。

そのことについて、私の口から伝えた時の母の顔ときたら…

最後までお読みいただきありがとうございました。 またお会いできる日を楽しみにしています!