【疑惑のカルテ Ⅰ】②復讐のシナリオ
主治医のY先生はとてもいい先生だ。
そう、ミスを犯すまでは。
もう40年も前に、私は故郷佐伯市にあった南海病院の緒方元院長にお世話になっていた。(note連載『わが郷愁の南海コレクション』参照)
その緒方先生以来、実に40年ぶりに出会えた「いい先生」だった。
いつもニコニコして愛想がよく、明るい。よく笑い、素人の質問にもちゃんと答えてくれる。加えて男前だから、女性患者に絶大な人気を誇る。病院の花形ドクター。トップセールスマン。初診は予約申し込みをしてから3週間待ち。再診ですら2週間以上待たされる。
佐伯市でも診察をしており、早朝6時から患者が並ぶと言う。
そのY先生が、自分のミスが原因で事故が起きた、と知るや、まったくの別人になった。リアル『ジキル博士とハイド氏』を見た。
連日のメールで私を、責める、責める、責め立てる…。
普段は電話にすら出もしない花形Dr.が、である。
ついには、
「あなたが好きこのんで、危険な検査を受けた」
とまで書いてきた。
以下は、医師からのメールの一部。
嘘だ…!
当日いきなり、特殊なレントゲンの機械が設置された場所に通された。医師からの事前説明、インフォームド・コンセントはまったくなかった。
「先生から聞いていない。嫌だ」と、技師に何度も拒否した。
どこを、どういうふうに、撮るのか。それがどうして必要なのか。何を診る目的か。。など、まったくわからないのだから、拒否して当然だろう。
それにお金の心配もあった。いつものレントゲン分のお金しか持っていなかった。
「いつものレントゲンを撮ります」としか言われてなかった。
患者が「嫌だ」と言うのに、執拗に、
「ドクターからオーダーが出ている。絶対に撮らなければいけません」
と、これも何度も言ったのは、放射線技師だ。
(嘘だらけ。どの口が言う…!)
腸が煮えくり返る前に、唖然とした。こんな嘘を平気でよくつける!
それでも私はY先生に、
「許します。もう忘れます」
と書いて返事を送った。どんないい先生でも、人間だから過ちはある。だからもう終わったことにしましょう、と書いた。
ところが、私の使っているGmailが、先生のau携帯では受信できなかった!
ezwebはGmailの受信ができない…。
知らなかった。
先生の携帯がdocomoかsoftbankだったら。
と思わないでもないが、ひとたび保身に走ったDr.の執拗な攻撃が、とどまったかどうかは疑問だ。たぶん、とどまることはなかったろうと思う。
その凄まじさは、もはや「狂気」とすら思えた。
どこから嘘が飛び出すのか。しかし取って付けた嘘だから、すぐにバレる破綻がたくさんあった。ちょっと前に言ったことと、あべこべを平気で書いてくる。嘘を指摘するとさらに、猛烈な追い打ちが来た。
嘘を嘘で塗り固めた、どこからどう見ても、嘘。
Y先生を知る患者からすれば、信じられない光景だろう。
「クールでミステリアス」とスタッフからも言われるY先生が、連日なりふり構わず嘘を並べ立て、自分の患者を責め立てるとは。
あまりの執拗さと、内容のデタラメさに疲れ果て、「私の心身が快復するであろう7月以降に話し合いの場を持ちましょう。それまで連絡は不要です」
と最後のメールに書いて送った。
その直後に、事務長からの「脅迫状」が届いたのは①に書いたとおり。
事務長の脅迫状を見た瞬間から、私の中にあった「深い絶望感」は、相手への「激しい怒り」と変わり、「怒り」はすぐに「憎しみ」「恨み」「呪い」へと変わっていく。
となれば、もう「復讐」しかない。
最初に立てた大ざっぱな復讐のシナリオは、3つ。
1 死ぬ
2 死ぬ気で闘う
3 泣き寝入り
私の性格からして3はあり得ない。
次に1。連中は、私が死んだところで、五月蠅いハエを一匹叩き潰したくらいにしか感じない。せいせいするのが関の山だ。
後で詳しく述べるが、医師は仕事で何人の人間を殺そうと罪に問われない、唯一の職業だ。
お国ががっちり守っている。
ついでに言うと、詐欺も許される。厚労省、警察、司法、すべてに守られる。海外は違うが、日本ではそうだ。
ならば、残された手段は、2しかない。
開示されたカルテから、不正請求は想像がついた。何せ急性期病院の5割以上が赤字なのだ。経営が苦しいから不正するしかないんだろう…と、この時にはまだ多少の同情心があった。
依頼した弁護士はていたらくで、ろくな仕事はせずに辞めた。自分で、病院を経営する医療法人の登記簿謄本を取った。
それを見て、目を見開いた。儲かっている! それもかなりの額。
(つづく)
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