【散文】懐古(1198文字)

小学校を卒業した年の春休みに、姉に連れられて遠くの公園までお花見に行きました。小学生の行動範囲には制限がありましたから、高校生の姉が教えてくれる知らない道を自転車で必死に着いていく間中、小さな私の胸はずっと高鳴っていました。
大通りから少し外れた、広いけれど車通りの少ない静かな道を駆け抜け、大きな図書館を横目に桜並木を駆け抜け、体いっぱいで遊ぶ小さな子供たちの声に押されるように住宅街の付近を駆け抜けて着いたのは、広くて静かな、山の上の自然公園でした。大きな口で深呼吸をして、狭い一歩を踏みしめるように自転車を力強く押し上げて、ようやく、涼しい顔した姉の隣に停めました。

周りにはちらほら人がいて、それは主に家族連れでした。緩急のある大きな芝生のどこに桜があるのと辺りを見回しながら、自分だけ顔を上気させて息を荒げているのが恥ずかしく、しばらく黙って姉について歩きました。長閑な春の囀りが、よく澄んで聞こえました。
自転車を停めた芝生を離れ、街が見下ろせる高台へ歩くと、その下に広がるまだ新しい石階段の更に下の広場を、桜が囲んでいました。その時立った階段の上からは、私たちの住んでいた街の中でも都会らしいところがよく見えて、子供ながらに感動し、世界って狭いね、なんてことを姉に零したと思います。しかし姉は、まあここ田舎だもんね、と笑っていました。

軽やかに階段を降りる姉を追いかける私の足音は、バタバタと騒がしかったです。しかしその広場では、風が吹く度に空を踊る花弁がコロコロと歌っているような心地がして、ガサツな足音を恥じらう気すら湧きませんでした。
ここにしよっか、と言って、姉が不意に芝生で立ち止まりました。そしてここまで肩にかけていたトートバッグから小さなレジャーシートを取り出し、ガサガサと音を立てながら敷いていきます。私も慌てて端を持ち、姉の様子を伺いながら地面に着地させました。普段、言われなければ何を手伝えばいいのかも分からない子供だったので、自分でも率先して動けたことに感心しました。
広場では他にも複数の大人達が、とても小さな子供たちと一緒に花見をしていました。その子たちは、親の優しい制止や注意を振り切って駆けだしたり、お友達同士で座り込んで笑っていたりと、大変にぎやかでした。そんな中、姉は高校生だったと言え明らかに子供同士で座っていることで、私は少し不安になりました。いつもなら自転車で行けないところに、親ではなく姉と来ていることが何かにバレたら、怒られたり捕まったりするのではないか…と。しかしそんな不安をよそに、姉はトートバッグからまだ何かごそごそしています。

「好きなのから食べよ。お茶もあるよ」
家ではあまり見ないお菓子がいくつも現れて、私は先の不安が一瞬で小さく、小さくなってしまったのを感じました。その時の私の顔は、きっと非常に無邪気な子供らしいものだったろうと思います。

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