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よりにもよってそんな奴

『バーカ』
これは私が留守電越しに受けた言葉である。

小学校4年。
この時期は大して馬が合わない人とも何故か一緒に遊ぶ時期だ。
今考えると、はちゃめちゃな性格の人とも何も考えずに遊んでいた。


同じクラスに、ある一人の女の子がいた。
彼女は特に目立って悪い子でも良い子でも無かった。
家も近かったことから、ある時から彼女と遊ぶようになった。
遊ぶようになってから、彼女の”違和感”に気づいた。

ある日ラップの芯を使って家で遊んだ。
大人からすると、そんなものでどうやって遊ぶのだと思うだろうが、子どもは何でもおもちゃになる。

彼女とラップの芯を使いひそひそ話をする遊びを始めた。
私は、鼓膜が破ける心配があったので「絶対に大声出さないでね」と約束した上でラップの芯を耳にあてた。
すると

「わッ!」

彼女は案の定大きい声を出して私の鼓膜を破ってこようとした。
彼女は笑っていた。
どこが面白いかわからなかった。

そしてある日事件は起こる。
私と鼓膜テロの子で真冬の寒い日に遊んでいた。
理由ははっきり覚えていないが、少し喧嘩になった。
一応、仲直りのような物はすぐにしたので特に気にも留めていなかった。
しかし、家に帰ってしばらくすると電話が鳴った。

「はい、宮本ですけど」
『・・・』
「もしもーし」
『・・・』

無言電話だった。
そしてガチャリと電話を切られた。

私の家を黒電話か何かと勘違いしたのか知らないが、ディスプレイには電話番号が表示されていたので嫌な予感がして学校の連絡網を見た。
すると、さっきまで遊んでいたあの子の家の電話番号が履歴に残っていた。


次の日、あの子がどんな顔で学校に来るかと楽しみにして学校へ行った。
すると、いつも通りだった。
私は若干の恐怖を覚えた。
普通小学校4年のガキなら”悪かったな”と顔くらいすると思っていたからだ。

それどころか、いつも通りに話しかけてきた。
「ねえ、今日遊ばない?」
こいつ正気か?と冷静な思考が脳裏をよぎる。
「あ、ごめん今日習い事あるから遊べないや」
嘘つくのが苦手な私は、本当に習い事があったので安堵した。

そして、その日もまた電話が鳴った。
兄貴が電話を出ようとした。
「ちょっと待って!」
兄貴が電話を出る前に私は叫んだ。
ディスプレイを見ると、昨日と同じあの子からの電話が掛かってきた。
「これ、出なくて良い」
どうして?という顔をした兄貴は私の指示通り電話を出なかった。
そして、留守電には驚きのメッセージを残していった。
『(カシャカシャカシャカシャ)』
なんだろう?貝殻でもこすってるのか?どういう音だ?
『(カシャカシャカシャカシャ)バーカ』
”ガチャ”
”プープー”

正直私は笑った。
奇妙すぎる音源にプラスし、か細い声でバーカと言ってきたからだ。
ワクワクとゾクゾクの何とも言えない感情が押し寄せてきた。このような体験はめったに出来ないからだろう。
私の中の好奇心が恐怖を上回っていた。

兄貴はおかしな電話に驚いていた。
「ああ、これね同じクラスのバカ。気にしなくて良いよ」


その後、何度もその留守電をリピートさせ、私はそれに対して論破する練習をした。いや、ディスカッションの練習をした。
いざ何か言われても、中々言葉が出てこず負けるような事があってたまるものかと負けん気の強さがあった。
そして、その面白音源を手に入れた私は、家族にもその音源を聞かせ、笑い話にした。
家族に心配掛ける事だけはしたくなかった。
小学生の娘が友人から無言電話(馬鹿電話)が来ていたら親は心配するだろう、と思っていたからだ。
しかし、私は万が一の時は拳で戦おうと昔から心に決めていた。
もし私にいじめをしてくるような輩が出た際には、殴り合いを提案しようと決めていた。
勝つ自信があったからだ。
そのため、心のどこかで家族に心配掛けるような事にはならないはずと小学校時代は思っていた。

次の日女がどういう顔をしてくるか、楽しみに学校へ行った。
また好奇心が勝ったようだ。
むしろこちらから『昨日の電話どうしたの?』と我が家は黒電話ではない事を知らしめて上げた方が良いかしら、と思っていた。
すると、もう話しかけてくることは無くなった。
その日以来、この女と遊ぶことは無くなった。
それどころか会話した記憶も無い。
なんだ、話しかけてくれたら黒電話じゃなくてあなたからの電話ってわかってるって伝えて反応を見たかったのにと思った。

その後、その女はクラスで度々事件を起こしていた。
私はその中の1つにしか過ぎなかったようだ。
後から考えれば、特に目立つ子じゃないと思っていたが
当時からクラスの女子に気に食わない子がいたら
「死ね」など恐ろしい言葉を裏で使い、悪口を言っていた事は後から思い出した。
そんな人と遊ぶのはリスキーである。


中学に入り、私は幼馴染の事を好きになっていた。
昔から知っているのに、何故か思春期に入ると幼馴染という物に人は惹かれるのだろうか。
カッコよくも無いし、性格も特別良い訳でもない冴えない男だ。
むしろ意地悪な事ばかり言って来て、腹を立てる事もしばしばあった。
中学で告白をするという発想にはまだ至ってない時期だったので、特に何もアクションを起こさずに時が過ぎていった。

ある日、悲報が入った。
小学校の時の無言電話女と私の幼馴染が付き合ったという情報が流れてきた。
夢なら覚めてくれ、そう思った。
しかしどうやら現実だったらしく、私の心はズタボロだった。
ちょっと前に、私は初めての失恋をして大きく心が傷つきやっと立ち直っていた所に、このパンチはきつかった。
せめて、別の子と付き合ってほしかった。


何故あの女?どういう性格か知ってる?私に無言電話(貝殻馬鹿電話)かけてきた女だよ?その後もクラスの人いじめてた人だよ?
何故そうなった?
私はその女よりもダメなのか?一生懸命生きてるけど報われないのか?
ひたすら自己批判を繰り返してしまった。

しかし、結局二人は数日で別れたという速報も入った。
一瞬でもあの女と付き合った幼馴染の事はどうでも良くなった。

そういえば、あの女と付き合う前に幼馴染とその仲間たちが罰ゲームと称し
幼馴染から私に嘘の告白(いわゆる嘘告)をしてきた事もあった。
それに対して物凄く傷ついた事もあったのに、
何故そんな奴の事を一秒でも好きになったのだろう。
そう思いながら、私はすぐに好きな人を変えた。
次は学年1番の変わり者を好きになった。

中学にして男を見る目が無いと確信した。


【終】

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