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映画『ハーフ・オブ・イット 面白いのはこれから』個性を受け入れると世界は優しい

アメリカの高校生が主人公の映画ですが、鑑賞後すっきりと気持ちが洗われるような作品でした。監督・脚本アリス・ウー、Netflixオリジナル、2020年製作、アメリカ映画。

アメリカの保守的な田舎町が舞台。主人公エリー・チュウ(リーア・ルイス)は中国系アメリカ人で成績優秀な高校生。父親と二人暮らしで生活は苦しく、クラスメイトのレポートの代筆で小銭を稼いでいます。ある日、アメフト部の補欠選手ポール(ダニエル・ディーマー)から、学校一の美女アスター(アレクシス・レミール)へのラブレターの代筆を依頼されます。電気代の支払いのため、しぶしぶ代筆を引き受けたエリー。実はエリー自身もアスターに恋心を抱いていて...

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アリス・ウー監督は1970年生まれで、台湾からの移民である両親のもとで育ち、自身の体験を基にこの作品を制作しました。

言っておくけど
これは恋愛モノじゃない
望みがかなう話でもない

という、エリーの言葉から物語は進みます。

この主人公エリーと父親は町の中では唯一の中国系アメリカ人です。白人ばかりの町で彼女は友人も一人もなく、同級生とはレポート代筆業でかかわるだけです。化粧もせず、メガネ姿で通学もひたすら自転車をこいでいます。本や映画に対する考察は深く高校生にして哲学者のようです。

自転車通学途中で、自動車通学の同級生たちが彼女のことを

「チュウチュウ・ポッポー」

と、いつもからかいながら通過しますが、それに対しても何も言わずに諦めきっているかのようです。

エリーを演じたリーア・ルイスがとても自然で良かったです。アジア系を描いた作品の中では断トツに共感できる雰囲気でした。

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エリーからもアメフト補欠選手のポールからも好意を寄せられるアスターは、学校ではいつも取り巻きに囲まれていますが、本来の彼女は読書が好きで繊細で思考の深い人です。取り巻き連中と一緒にいても孤独な気持ちで過ごしています。

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代筆を頼んだアメフト部のポールは、英語が苦手です。エリーから見ると単純で文化的教養が全くない、自分とは共有する感覚がゼロな人物だと初めはバカにしながら接します。

ある日の通学途中、自動車通学の同級生がエリーをからかいながら通過しようとした時、ポールは

「今なんて言った?
おい待て 言い逃げかよ!」

と同級生の車を停車させ、怒鳴ります。自然に当たり前のように。

ポールは気の利いた会話など全くできませんが、単純で優しくて正しい心を持った人です。

エンジニアだけど英語力が無いため家に引きこもっているエリーの父親とも屈託なく自然に接したり。

エリーのアスターに対する恋心、ポールの手紙は代筆だったこと、すべてが明るみになり、人間関係も揺れる中、エリーは大学進学のため町を出る決心をします。

だまされた側になるアスターですが、悲劇のヒロインにはなりませんでした。彼女は、代筆だと自分は気がついていたのかもしれない、とエリーに話します。代筆者のエリーが孤独な自分の理解者だと感じていたのです。

エリーのアスターに対する思いを聞いたとき、ポールは思わず否定的な態度を取ってしまいます。彼の住む田舎町では同性を愛することは宗教的に認められないことなので。それでも彼は一生懸命エリーを理解しようとします。

エリーの父親に進学の事を話して、後押ししてくれたのも彼でした。

エリー出発の日、以前エリーと一緒に映画を観た時、彼女がバカにしていたベタなシーンをポールが再現して、この作品は終わります。


そのポールの無邪気で元気で愛情にあふれる様子を見たら、

性別も国籍も人種も教養のあるなしも

関係ない

人が人を愛することは素晴らしい。

こう感じたことを覚えておきたい、と思いました。








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