《#無垢な泥棒猫》「あなたの息子さんとときどき会って、そしてときどき寝ています」【夜の果てのごく短い時間】#23才冬
いまならば、と、透は思う。
地下鉄を神谷町で降り、
ゆるい坂道をのぼりながら。
いまならば、詩史さんも母親に逐一報告することはできないだろう。
あなたの息子さんとときどき会って、そしてときどき寝ています、なんて。
寒い夜だ。吐く息が白い。
夜の東京タワーはやわらかな灯りに縁どられ、それ自体が発光しているようにみえる。
まっすぐな身体で、夜の空にすっくと立って。
東京タワー/江國香織
だれよりも、自分を愛して生きようと思う。
私はあの人じゃなくてあの人になりたいわけでもない。
快適に、日々を過ごすためには
麻痺していくことが必要。
苦しさから解放されることを諦めない。
わたしが、一番幸せを感じる瞬間はいつなのか
それを絶対に、忘れないように、
そして的確に確保しながら息を続ける。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?