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ピーター・センゲ:学習する組織②


 
「組織はしばしば学習障害に陥りやすい」
 
ピーター・センゲは、「人々がたゆみなく能力を伸ばし、心から望む結果を実現しうる組織、革新的で発展的な思考パターンが育まれる組織、共通の目標に向かって自由にはばたく組織、共同して学ぶ方法を絶えず学び続ける組織」、それが「学習する組織」であると述べましたが、
 
それには、5つのポイント、すなわち、『システム思考』『自己マスタリー』『メンタルモデル』『共通ビジョン』『チーム学習』があると述べました。
 
センゲが「最強の組織の法則(The Fifth Discipline)」(1990年)を発表した時、1980年代、米国の企業は、日本企業の躍進の煽りを受けて、国際競争力を低下させ、企業の倒産率が上昇していました。
 
センゲは、その原因を、「企業は学ぶことが下手で生き残りはしても、潜在力を発揮できていない」と考え、企業には7つの学習障害があると分析しました。
 
センゲの言う「学習」とは組織がさまざまな問題に対応するための力を得ることとされていますが、学習障害があるというのは、組織の様々な問題に対応する能力を持っていないという意味になります。
 
7つの学習障害は、
 
(ⅰ)自分の責任は自分の職務の範囲までと考え、不本意な結果が出ると、誰かがしくじったのだと考えてしまうことです。「自分の責任は自分の職務の範囲まで」は、もしすべての職務の人々が同じ考えを持った場合、うまく行かない原因など全体として見つけることはできないでしょう。
 
(ⅱ)物事がうまく運ばなかったときに、その原因を自分ではなく、「ほかの誰かまたは何かのせいにする」ことを示しています。「敵は向こうに」あると考えます。これは①の問題の言い換えです。
 
(ⅲ)「向こうの敵」に対してひたすら攻撃的になるとすれば、それは真の「積極策」ではなく、形を変えた受け身となります。言い換えると、正確な状況判断や原因分析の欠如した策、すなわち、「向こうの敵」という考えは「問題解決の積極策などではない」ということです。
 
(ⅳ)組織内の会話の中心が、出来事についての関心であり、先月の売上高、新しい予算削減、競争相手が出した新製品など、人々の考えが短期的出来事だけに支配されている組織では、創造的学習を見出せません。この「個々の出来事にとらわれる」という傾向を克服しなければなりません。
 
(ⅴ)個々の出来事にとらわれるという学習障害と同様、重大な脅威は、徐々に進行するプロセスに隠れているので、「ゆるやかなプロセスに目を向けることを学ばなければならない」と、センゲは警告します。
 
(ⅵ)重要な決定の場合は、たいてい直接には経験していないことも多く、体験から学ぶことの限界を示しています。センゲは体験から学ぶという錯覚に陥るなと警鐘を鳴らします。
 
(ⅶ)ほとんどの企業は、複雑な問題を究明するよりも会社の考え方を擁護するのに秀でた人間を評価する傾向にあることから、経営幹部のほとんどが集団での批判的検討を行わない「熟練した無能」となる可能性があります。経営チームの神話には要注意です。
 
「綜合性の認識を高める学習」
 
センゲの「システム思考」における綜合性の重要性が、以上の7つの学習障害の説明で、把握しやすくなったと同時に、「組織に於いて学ぶ学習」がいかに必要不可欠であるかが理解できます。
 
「学習しないことへの反省」
 
ピーター・センゲがなぜ世界中の注目を浴びる「学習理論」の権威に押し上げられたのか、その理由は、はっきりとしています。
 
企業の経営が、大企業から中小企業に至るまで、学習を必要としているにもかかわらず、あまり学習しないために経営に行き詰まり、それゆえ、学習しない組織の危険性および脆弱性が世界各国で露になる出来事を人々は多く目にしました。
 
特に、経営者たちは、骨身に染みる経験をしていたので、センゲの『学習する組織』(2007)に飛びついたのです。折しも、2008年はリーマンショックの年、誰もが救いを求める状況にありました。
 
「システム原型を理解せよ」
 
学習する組織の5つのポイント(①システム思考②自己マスタリー③メンタルモデルの克服④共有ビジョンの構築⑤チーム学習)の中で、特に、「システム思考」が重要であり、大きく見ると、他の四つは「システム思考」の中に包含されるとセンゲは言っていますが、
 
それでは、「システム思考 (systems thinking)」が、「パターンの全体を明らかにして、それを効果的に変える方法を見つけるための概念的枠組み」であるならば、システム思考を掘り下げなければなりません。
 
センゲはシステム思考の本質を、
 
▪因果関係を環状のフィードバック・プロセスととらえ、 プレイヤーもその一部と考えること、
 
▪フィードバック・プロセスには自己強化型 (reinforcing feedback) とバランス型 (balancing feedback) があること、
 
▪フィードバック・プロセスの中には行動と結果との間に遅れ (delays) があること、
 
▪このような用語 (システム言語) を用いて、 構造のパターン =システム原型 を理解していくことであるとしています。
 
システム原型という言葉の意味の中に、以下のものがあると述べています。センゲが言うシステム原型は、ビジネスの文脈にまとめなおすと、次の10の原型となります。
 
(ⅰ)「遅れを伴うバランス型プロセス」、
(ⅱ)「成長の限界」、
(ⅲ)「問題のすり替わり」、
(ⅳ)「介入者への問題のすり替わり」、
(ⅴ)「目標のなし崩し」、
(ⅵ)「エスカレート」、
(ⅶ)「強者はますます強く」、
(ⅷ)「共有地の悲劇」、
(ⅸ)「うまくいかない解決策」、
(ⅹ)「成長と投資不足」、以上の10項目です。
 
10項目の一つ一つを説明する紙面の余白はありませんが、「学習する組織」を目指すことによって、過去の組織文化や戦略の枠の中に、思考や行動が縛られることなく、変化に対応し、自己改革していく機能を、組織は備えることができるようになります。
 
そのためには個々の社員がビジョンと自律性と協調性を持ち、現在の環境に適応する強さと将来の変化に対応する柔軟性を理解し、実践することが必要です。
 
その結果、センゲが定義する「人々がたゆみなく能力を伸ばし、心から望む結果を実現しうる」組織になることが可能となります。
 
組織が陥る罠があり、それを回避するシステム思考がある、これをセンゲは明確に語った人であり、システム思考を掘り下げると、システム原型に突き当たったという話です。
 
ここまで語ったセンゲの言葉は、実践してみる価値が大いにあるというものです。

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