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ピーター・センゲ:学習する組織①


 
「管理する組織から学習する組織へ」
 
世の中のあらゆるものが組織である、と定義しようとすればできないこともありません。政治、経済、言論、教育、医療、その他、それぞれの領域が組織で動いており、純粋な単独行動と言えば、趣味に没頭している趣味人ぐらいのものでしょう。
 
そもそも、人間の人体組織そのものが、細胞から始まり、細胞が組織を作り、組織が一定の機能を目的に器官を形成し、各器官が連携して器官系を形成すると、一個の人体は器官系の統合体となります。
 
原則的に言えばそうなりますが、人体と違って、人間が作る組織は一旦作ったら動かすことのできないものということではなく、不都合が生じると組織改編などは、しばしば必要になります。
 
人間が作った組織は、「管理」という側面が強くイメージされ、「する側」も「される側」も、何か重苦しさを感じる要素があり、企業収益という実績を挙げる戦いを遂行しているので、組織体制の良し悪し、上司と部下の人間関係、商品や品質の良し悪し、といったことなどの評価、見直しが余儀なくされることになります。
 
要するに、良く機能する組織を人々は欲しており、硬直した発展のない組織を望んではいません。組織の評価や見直しを分析的に行うか綜合的に行うかで、組織の在り方は大きく変わってきます。
 
ここにおいて、組織は如何にあるべきかというテーマが生まれます。
 
ピーター・マイケル・センゲ(1947~)は、その名著『学習する組織』(2007年)で知られ、マサチューセッツ大学の教授を永らく勤め、現在は、MITのスローン経営大学院の上級講師を務め、組織学習協会を創設した人物であります。
 
センゲは、旧来の階層的なマネジメント・パラダイムの限界を指摘し、自律的で柔軟に変化しつづける「学習する組織」の理論を提唱します。20世紀~21世紀のビジネス観に最も大きな影響を与えた1人と評される人物です。
 
「21世紀の経営哲学の視点」
 
センゲの言う「自律的で柔軟に変化し続ける『学習する組織』」とは、一体、どういうものでしょうか。
 
組織はシステムでありますが、企業の経営システムを分析(アナリシス)中心に見てしまったり、支配的な管理システムに拘(こだわ)っていたりすると、そのことによって、経営の本質を見失い、衰退する企業が少なくありません。
 
経営システムを分析ではなく綜合(シンセシス)の視点から見るべきであると、センゲは言います。
 
この綜合の視点こそが、「自律的で柔軟に変化し続ける組織」の姿を捉えたものであり、そのような理解の上に立った組織・システムとしての企業は、「分かたれることのない全体」としてはじめて機能します。
 
皮肉にも、多くの企業が意識的もしくは無意識のうちにつくりあげている経営の「システム」が、システムとしての組織を破壊している故に、経営に種々の問題が生じ、挙句の果ては、衰退、倒産などの悲劇を生むのです。
 
従って、システム思考の概念と実践が必要であり、何よりも、「管理する組織」から「学習する組織」へ脱皮しなければ、組織はうまく行かないという警告を、センゲは発します。
 
綜合的に機能する組織は、「学習」の上に成立するのです。階層的マネジメント・パラダイムの時代は過ぎました。フラットに、綜合的に対処しなければならない21世紀の経営哲学をセンゲは示したのです。
 
「学習する組織の5つのポイント」
 
ピーター・センゲは、「これからの組織は、1人の大戦略家の指示に従うのではなく、あらゆるレベルのスタッフの意欲と学習能力を生かすすべを見いだす組織、すなわち、学習する組織(ラーニングオーガニゼーション)であるべきだ」と主張しています。
 
そのために必要な5つのポイントがあると言います。
 
第一に、「システム思考」ですが、それは、自分が直接かかわる個別の事象だけでなく、全体の相互作用を捉え、それを有効に変えていく方法を理解すること、その把握のために必要な知識とツールの総体、これを「システム思考」と言います。
 
第二に、「自己マスタリー」であるとセンゲは言いますが、マスタリーとは習熟度を指し、個々人が習熟度を上げるための努力があると、それだけ組織の活力を生み、ラーニングオーガニゼーション(「学習する組織」)の土台となるという考え方です。
 
第三に、「メンタルモデルの克服」ということです。我々の心の中には固定化されたイメージや概念がありますが、それを客観的に見直し、その時に良いと判断した内容であっても、時代や環境の変化に応じて考え方を変えなければならないという意味です。

第四に、「共有ビジョンの構築」です。センゲは「本物のビジョンがあれば、人々は学び、力を発揮する」と言います。そうせよと言われるからではなく、そうしたいと思うから人は行動すると見るのです。 強制された義務ではなく、本心の発露からする行動が重要であるということです。
 
第五に、「チーム学習」です。一人一人は優秀であっても、組織として優秀かどうかは別の話です。センゲは「素晴らしいチームははじめから素晴らしかったわけではなく、素晴らしい成果を生む方法を、チームが学習したのだ」と強調しています。
 
「システム思考の重要性」
 
例えば、営業部門、経理部門、生産部門、顧客管理部門など、それぞれが自分のところの業務改革や情報システムの刷新に取り組んでも、それらが全体としてよく機能するかどうかは、実際にやってみなければわかりません。
 
部門ごとの業務の完結性があっても、それぞれの部門が有機的に繋がって機能する綜合性に不備が見られると、各部門の業務改革も情報システムも全部やり直さなければなりません。
 
ここに、センゲの言う「システム思考」の重要性があります。自分が直接かかわる部門の業務だけでなく、すべての部門の全体的な相互作用を捉え、それを有効に変えていく方法を理解することです。
 
分析的な独立性、完結性ではなく、綜合的な有機性、関連性を重要視するということです。企業はあくまでも、一つの有機的生命体であり、一部門だけが突出していても、全体としての有機的関連性が十全でなければ、存続できません。
 
いくら営業が順調であっても、顧客管理がメチャクチャであったり、生産が追い付かなかったりすれば、企業としての健全性は合格点を貰えないということになります。
 
自分のところだけしっかりやればよいとう考えでは、「システム思考」の欠落であり、会社の発展に貢献しません。

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