マガジンのカバー画像

“わたし”が紡ぐ虚の物語

156
わたしという存在の片鱗。 ちょっとした余白にメモする感覚で書いています。 【タイトル変更履歴】 『嘘つきは作家のはじまり』⇒『わたし世界』⇒今
運営しているクリエイター

2017年11月の記事一覧

小説を書くことは航海に似ている

 小説を書いていると、地図も持たずに目的地のない航海をしている気分になる。わたしはプロットを組み立てるのが苦手だから——実際に書き始めないと物語が動いてくれない——、ほとんど丸腰で海へ漕ぎ出すようなもの。
 だから完成させるまでは、永遠にどこへもたどり着けないんじゃないかと不安で、実際、暗礁に乗り上げてしまうこともある。
 でも、気づいたら自分なりの航路を見つけ出してることも多くて。今日もそう、「

もっとみる

素材の味を生かした料理ばかり作るひと

 先日、恋人が久しぶりに実家の母親と一緒にご飯を食べてきた。そのときに「ご飯作ってもらってるの?」という質問が出たので、彼は「うん。でも、素材の味を生かした料理しか出てこない」と答えたそう。
 一度だけでは言い足りなくて、食事のあいだ何度も同じことを訴え続け、最後にはお母上から「あんたは油っこいもんばっかり食べてるからそれくらいがちょうどいいねん」と言い返されたのだとか。

「えっ、そんな風に思っ

もっとみる

前髪を逃がさないために

 十代のころから前髪はぱっつんが基本で、それも厚めに取ってもらうのがお気に入りだ。

 だから美容室では必ず「前髪厚めにして下さい」とオーダーするのだが、二カ月、三カ月と放置するうちに、気づいたらスカスカになっている。
 毎回、この現象が起きる。

 先日、美容師さんにその話をしたら、

「横へ横へ逃げていっちゃうんでしょうね」

 と返ってきた。
 だから、今後は逃がさないように見張りをつけるこ

もっとみる

株式会社 犬棒

 恋人に「類友だね~」って言いながら、それが「類は友を呼ぶ」の省略形であることを思い出す。危ない、危ない。いつのまにか「類友」自体が熟語であるかのような気になっていた。

「最近の若者はなんでもかんでも略すからなあ」と、年寄りくさいことを考えつつも、「ここまで略しても意味が通じるなんて、漢字に込められた情報密度の高さよ!」と感動してみたりして。
 つい、他に漢字二文字に略せることわざはないかと探し

もっとみる
これぞほんとの隠し味

これぞほんとの隠し味

 お気に入りのシチュールウを手に入れたので、昨夜は彼の好きなビーフシチューを作ってみた。圧力鍋で具材を煮込んでルウを入れるだけのかんたんメニューだ。
 シチューやカレーって、箱の説明書き通りに作れば、だいたいだれが作っても似たり寄ったりの味になる。

 そんなわけで私も気を抜いて作ったんだけど、いざ夜になって食べてみると(わたしは六時きっかりに食べたい派なので、基本的には先に食べてしまう)、なんだ

もっとみる

ある寒い朝、わたしは思いがけず脱皮をした

 ひとり暮らしを始めて以来、薄っぺらい敷き布団(六つ折りにしても厚さ十五センチ以内)の上に寝袋を置いて眠っている。
 使用しているのは「マトリョーシカ」という3WAYタイプの商品で、組み合わせ次第で二人サイズになったり二重になったりする優れもの。

 睡眠中に大暴れする人間なので、基本的には二人サイズでゆったりと使っていたのだが、あまりに寒いので、今朝、試しに二重モードに切り替えてみた。マトリョー

もっとみる

横領したギフト券の行方

 価格コム経由でプロバイダー(eo光やJCOMなどいろいろ選べる)に契約を申し込むと、ギフト券で一~二万程度の還元が受けられる。
 いまの家に引っ越すとき、そのシステムを利用してわたしは二万円のギフト券を手に入れた。

 当初、彼には「二人で使おうね」と言っていたのだが、ついつい魔が差してこっそり自分の買い物に使う日々。これでスカートとかスカートとかヒートテックとかを新調した。

 ところが、昨日

もっとみる

味覚の時差

 誰かと一緒に何かを食べているとき、大抵自分以外の人間が先に「おいしい」とか「微妙」とか言って反応する。
 同じタイミングで食べ始めたはずなのに、その時点でわたしの脳は味の情報を受け取っていない。だから、わたしは「おいしい?」とオウム返しをしながら、とりあえず咀嚼を続ける。

 そんなことを繰り返していると、たまに「あれ、おいしくなかった?」と不安そうに訊き返されることがある。
 そういうとき、わ

もっとみる
どっちつかずのセイタカアワダチソウ

どっちつかずのセイタカアワダチソウ

 ウォーキング中、ふだんあまり通らない道を選んでみたら、見慣れない花が咲いていた。
 背が高くて、真っすぐに伸びた茎の左右にびっしりと細長い葉がついている。上の方は杉のような三角になっていて、その部分に小さくて黄色い花(なのか、これは?)がびっしりとついている。
 色がついているから花だと判断したけど、花粉をまぶしたような見た目をしているので自信がなかった。

 家に帰り、写真を頼りにその植物の名

もっとみる

小説にも発酵が必要

 書いている小説が煮詰まってきて前に進まなくなったら、とりあえず眠らせてみることにしている。もしかしたらそのまま永眠についてしまうかもしれないけど、それが本当に表現したいことであれば、また起こしたくなる日がやってくると信じて布団をかけてやるのだ。

 わたしが中編以上の小説を書くときは、だいたい一度眠らせてから数か月後に起こして完成まで持っていくことが多い。
 ずっと同じ作品を書いていると、同じも

もっとみる

ハーゲンダッツによる涎(よだれ)の実験

 恋人が目の前でハーゲンダッツを食べている。わたしの分はない。二週間も前に食べてしまったからだ。
 だけど彼はやさしいので、物欲しそうに見つめていると一口食べさせてくれる。今もそう、スプーンにすくってわたしの口元に差し出してくれた。

 大きく口を開けてスプーンを迎え入れる。ところが、もうちょっとで捕獲完了というところで突然スプーンが逃げていった。
 二回目のチャンスでは猛スピードで咥えにいったが

もっとみる

流行の「口」

 唇を突き出してポーズを決めているモデルの自撮りを見て、近くにいた三歳児が質問した。

「どうして最近のモデルはタコチューの顔ばかりしてるの?」
「タコじゃなくてアヒルだよ」

 そういえば、「アヒル口」ってまだ流行ってるんだろうか。暇潰しがてら検索をかけてみる。
 検索一覧に『アヒル口は古い?アヒル口は古い?今の流行は魚口らしい!様々な新旧盛りポーズ』というタイトルを見つけて思わずクリックしてし

もっとみる

トゲトゲ武装

 ウォーキング中、ふと空を見上げたら、電線の一部がトゲトゲしていた。よーく見たら、有刺鉄線のような棘のある素材で武装している。
 何のためのトゲトゲだろう。
 鳥対策?
 そこだけ高圧電流が流れているのだろうか。

もっとみる

親が子に似るようなもの

 明け方、家の近所を散歩していたら、横に広く枝葉を伸ばした気が目に入る。何かに似ている。
 なんだっけ?
 ほら、あの、考えごとを整理するときに使う……
 マインドマップだ!

もっとみる