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処分できない本

私は読み終わった本には無頓着だ。古典の本とか、後でまた見る機会のあるものは取っておくが、それ以外は大概処分する。特に小説などは、真っ先に処分する。二度読むことは、殆どないからだ。時々家人から、読もうと思ってたのに、なんでもかんでもすぐ売っちゃう、などと怒られる。読みたいんなら、断ってサッサと自分の本棚に確保すればいいのである。私とて、他人の本棚から本を取り出して売りゃしない。
では、小説の類のものは、全部処分するかというと、どうしても処分できないものもある。昔、角川文庫から出ていた坂口安吾のシリーズだ。17冊ある。安吾を全部読みたいのであれば、ちくま文庫の全集があるが、別に全部読みたいわけではない。角川本には思い入れがあるのだ。インターネットでお手軽に買える時代の前に、古本屋でコツコツ集めたのだ。集め出した時は、もう絶版だった。だから全部揃った時はとても嬉しかった。何年もかかった。昔は、こんな古本屋巡りの楽しみがあったのである。ある者は、田中英光全集を端本から揃えることを目標とし、ある者は唐十郎の著作を全て集めたがり、ある者は寺山本に熱中していた。すぐに集まらないから面白いのである。みんなそれぞれの趣味を知っていて、協力した。昔、三軒茶屋の古本屋で、角川文庫の唐十郎「少女仮面」を見つけた。100円均一の棚だった。買って友人に渡すと、えらく感謝された。角川文庫の坂口安吾シリーズも、そんな血と汗の記憶があるので捨てられないのだ。
そうそう、少し前、三軒茶屋に行くことがあって、あまりの変わりように驚いた。世田谷線の駅裏にあった古本屋も勿論なくなっていた。私はそこで「夜長姫と耳男」を買った。世田谷通りを少し行って奥に入った所に映画館があった。勿論なくなっていた。私はそこで「嗚呼!おんなたち 猥歌」を見た。

ああ、時は過ぎゆく。

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