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BAR自宅、日本酒

 バーには黒猫がいる。
 テーブルの向こう側に座る、真っ黒ツヤツヤの毛並みと金色の目、くたくたのやわらかい体が自慢の、ねこが。

 

 定時で帰宅するというのは良いものだ。それが特に、金曜となれば。
 ねこの飼い主は帰宅するや否や慌ただしく家事を済ませ、シャワーを浴びてもふもふのパジャマ姿になった。それでもまだ18時半。本当に、定時というのは良いものだ。
 たとえそれが、来週に訪れるだろう嵐の前の静けさだとしても。
 今は金曜の夜を満喫するのが先である。
 彼女は食事用のテーブルにタブレット端末を持ってくると、片隅に置いてもう何度も見たお気に入りの動画の中から今日の気分に合うものを探し、指先で画面を操作して小さな音量で流し始めた。猫と犬が戯れているだけの穏やかな光景。
 今日は出番はなしかな、と黒猫が思い始めたところで、キッチンに向かった彼女は両手に何かを持って戻ってきた。
 烏賊のフライ。
 それから、日本酒。
 ベッドに転がされていた黒猫を振り返り、にっこりと笑う。
「飲むぜ!」


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1,448字
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