第307回 近現代も考古学
1、論文を読んでみよう Vor.5
今回取り上げる論文は
武内雅人2016「煉瓦の規格比定による旧池田トンネル竣工年代の推定」『考古学研究』63ー2
になります。
近年は近代をテーマにした考古学も徐々に盛んになってきました。
2、本論文が掲載されている雑誌の構成
考古学研究会第62回総会講演の記録
羽生淳子「食の多様性と気候変動」
「考古学が人間と環境との相互関係についての学際的な議論に積極的に貢献できる」ということを縄文時代の北東北の事例を元に紹介する。
同研究集会(上)
大庭重信「地形発達と耕地利用からみた弥生・古墳時代の地域社会」ジオアーケオロジー(考古学と地学の協同)の手法によって弥生時代から古墳時代にかけての河内平野南部地域を分析。
後藤健一「古代浜名湖周辺にみる自然の変化と社会の変容」
浜名湖岸線が奈良時代松から平安時代初期に水没したとされることについて、湖西窯跡の分析を中心に検証したもの。
展望 特集 遺跡・ナショナリズム・先史学
2013年6月から2014年11月にかけて行われた連続講演会の記録
坂野徹「序論」
特集の趣旨説明。国外の考古学史研究の必要性について言及されています。そして以下の三者がフランスの事例を報告しています。
ロラン・ネスプルス「フランスにおける考古学」
アルノ・ナンタ「フランスにおける考古学の発展と制度化」
ノエル・ユーユ「アンリ・ブルーユ神父」
杉井健「平成28年熊本地震による文化財被害および今考えること」
2016年4月に発生した地震の被害は熊本城や阿蘇神社の様子が報道されているが、それ以外にも古墳等も大きな被害を受けていることを紹介。その上で、三次元データの蓄積やこの地震の記憶をどう残していくか、という課題を提示しています。
瀧川渉 「アンスロポシーンの行方」
ギリシャ語由来のanthropo(人)にcene(〜新世)を組み合わせて「人類の時代」と捉えたもの。新生代第四紀完新世の後に「人新世」という地質年代を設定することができるかという議論が紹介されています。
妹尾周三「西瀬戸内に伝わった山田寺式軒丸瓦」
広島県広島市の光見寺廃寺の出土遺物の中にもっとも古い段階に地方に波及した山田寺式の瓦が含まれることを紹介し、どう評価されるべきかを問うたもの。
【連載企画】佐藤啓介「アートな考古学の風景⑤
現代思想・哲学を専攻する著者が考古学とアートの協働のあり方について理論的な観点から整理したもの。
書評 和田勝彦著『遺跡保護の制度と行政』
考古フォーカス
フランス バルヌネズ墳墓とヨーロッパ巨石文化
宮城県大崎市 北小松遺跡の発掘調査
例会レポート
という構成になっています。
3、今日のフレームワーク
・どんなもの?
和歌山ー大阪間にある旧池田トンネルを素材に煉瓦の規格から竣工年を明治33年(1900)と推定したもの。
・先行研究と比べてどこがすごい?
これまで自治体史などで言及されてきた竣工年代が根拠の薄いものであることを指摘し、考古学的な手法で年代を検討したところ。
・技術や手法のキモはどこ?
中央の露頭部を挟んで南北に分かれるトンネルの出入り口それぞれで煉瓦のサイズを計測して、それぞれ別の規格であることを明らかにしました。
また寸法の平均値や中央値から規格を見出すのは困難であるため、三辺全てが規格に適合する数をカウントするという手法を導入したところはキモだと言えるでしょう。
・どうやって有効だと検証した?
これまで著者らは同様の調査を継続的に実施してきており、特定の規格の年代観(この規格の煉瓦はいつ頃まで使われていたか)についてはほぼ捉えられてきているといいます。
また近傍の煉瓦生産尾状況や古地図・碑文すべてが整合的に理解できることも煉瓦の年代観が有効性のあるものだと示しています。
・議論はある?
正直結論には議論を挟む余地はなさそうです。強いて挙げれば、統計学的処理が有効かどうかとか、見出された規格を「考古学的型式」と直結していることの可否についてでしょうか。
・次に読むべき論文は?
参考文献に挙げられている
深井明比古2015「タイル考古学の現状と課題」『兵庫県立考古学博物館 研究紀要』 第8号
煉瓦の次はタイル!ということで。
4、されどレンガ
いかがだったでしょうか。
今回は明治の頃に作られたレンガも考古学的な手法で研究することで、土器などと同じように年代を決める物差しになり得るのだという例でした。
明治の頃のレンガは意外と丈夫で、わが町にもいくつか遺構が残っています。
あるところなんて廃線になった鉄路のトンネルが今は一般車道になっていたりもします。
ぜひお近くでも近代建築のレンガを探してみてはいかがでしょうか。
そういえば大学生の頃に西アジアの考古学の講義を受けましたが、あちらの建築では日干しレンガが建材としてよく使われ、その規格が遺構の年代を知るヒントになっていましたね。
フレームワークだけでは論文の内容がわからないよ!という方は是非公共図書館等で本誌をお手にとってみるのもいいかもしれませんね。
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