第463回 犯人探しをしてもしょうがない

1、破壊された文化財は戻らない

また悲しいニュースが報道されました。

西日本新聞によると長崎県島原市の島原城跡で櫓台跡の石垣が解体されてしまったとのこと。

もちろんこの場所は周知の埋蔵文化財包蔵地、いわゆる遺跡に登録されていますので、文化財保護法によって事前の届け出が求められています。

まずは土地の所有者が届け出を怠ったということになろうかと思います。

2、発掘調査に至る前に

しかし、地権者は昨年10月に電話で市の教育委員会に相談を実施していたとのこと。

しかし担当者は「調査が必要」ということを伝え忘れたとのこと。

そんなことがあるのでしょうか。

厳密に言えば調査が必要かどうか、ではなく、まずは届出が必要ということを伝える必要があります。

届出は工事の着手60日前までに行うことが定められており、法律では文化庁長官宛てに出すことになっています。

実質は都道府県や大きな市に権限が委譲されています。

よって発掘調査するかどうかは都道府県が決めることになります。

遺跡内での工事であっても、すでに調査が行われている場所だったり、遺跡への影響がないと考えられる場合は「慎重工事」を行うよう指導されることもありますし、

「工事立会」として工事中の現場を必要に応じて確認することで済ませることも少なくありません。

遺構の残存状況や、工事で行われる掘削深度などを考慮して判断されることになります。

遺跡内での工事だからといって必ず全面発掘をするというわけではなく、

むしろ件数ではそちらの方が少数だと言えます。

ただ、今回の件に関して言えば、地表に石垣が厳然としてありますから、

どのように構築されていたのか、建築年代は?など

調査が必要だったことは間違いないでしょう。

3、なにかひっかかる

それではなぜ

調査が必要ということを伝え忘れた

ということになるのでしょうか。

正直理解できません。

記事化するときに記者さんがよく制度を理解していなかったのか

なにか裏があるのでは?

と勘ぐりたくなってしまいますね。

例えば地権者が地域の有力者で、市の指導に従わずにやってしまったことを

どう説明するかという辻褄合わせが行われたとか。

…邪推はいけませんね。

いや普通に文化財担当者が届出が必要なことを伝え忘れるということは想定できませんから。

届出がしっかりなされていましたら

文書で「発掘調査を実施すること」

という文言が伝えられるので言った言わないの議論にもならないでしょうし。

電話で話しただけだと証拠も残りませんからね。

どうにも腑に落ちないんですよ。

4、ではどうするか

憶測で物事を語ってもしょうがないですし、

済んだことをこねくり回しても前には進めませんよね。

まずは地方自治体は「遺跡は大事だね」と思ってくれる人を

一人でも増やせるように普及活動に励むしかないでしょう。

その役目は日々住民と接する自治体の担当者にこそ担って欲しいところです。

私自身もより一層肝に銘じておきたいところです。

蛇足を一つ付け加えると

文化財保護法の規定が不十分なことも問題ではないかと思うんですよ。

発掘調査費用は誰が負担すべきかはいつも議論になりますし、

実際訴訟になった例もあります。

あまりがんじがらめにして融通がきかなくなるもの問題ですが、

担当者次第で対応がころっと変わってしまうのもまずいですよね。

法律で明確に手続きが義務付けられ、対応の決定基準もブレずに、罰則もしっかりしていればトラブルはすくなるのではないかと思ったりもします。

人の良心に期待しようとする部分と法律で縛らなくてはいけない部分、

どちらかに偏ることなく、両輪のように機能してこそ遺跡は守られるのではないでしょうか。

ぜひ皆さんのご意見もお聞かせください。


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