たゆたい⑥

私は転職を決めていた。「生徒の心を前向きに変えて、人生のサポートをしたい」という思いは、壮絶な職場環境の中で打ち砕かれた。

転職エージェントとの面談の帰り道、私はLINEで彼に連絡をとった。しばらく打っていなかったメッセージ。既読がついたまま、そのままにされたメッセージ。これ以上、彼に関わってはいけないのだと思った。同期によると「忙しすぎて埋もれてしまっている」ようだった。
私は彼に告白をしようと決めていた。
メッセージは既読無視。仕事の相談という体でとった連絡は返事はあるものの「おー」という言葉で濁すようにあいまいで、はぐらかされていた。
距離を取られているのが明らかだった。
それでも、どうしても言いたいことがあった。「好きだ」という気持ちよりも、どうしても伝えたいこと。もしかしたら、それがそのまま、好きという言葉でなくとも代わりに何かに変わって伝わるかも知れなかった。誰も言わなくてもわかりきっていること。でも誰も伝えてあげないこと。
ただの、エゴかも知れなかったし、もう連絡はとってはいけないと思っていた。
これ以上、彼に近づくことは私には許されていない。
同期にそれを相談する機会があって、(石田くんという同期だ)私の代わりに彼に連絡をとってくれた。
「ゆずひなが仕事辞めるから伝えたいことがあるみたいなんで、話聞いてやってくれませんか?」
「おー、わかった」
彼はいつものあいまいな返事を返した。

その後押しのおかげで、彼と最後に繋がるチャンスを与えられた。
これが最後だ。
絶対に、困らせたり嫌な思いをさせたりせずに、ただそれだけを伝える。

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