見出し画像

【読書メモ】『路(ルウ)』(著:吉田修一)

台湾当局が能登半島地震を受けて民間から募った寄付金が約5億4158万台湾元(約25億6千万円)に上った

出典:「台湾の日本に対する友情の証」 能登半島地震寄付金約25億円に林官房長官が謝意
(『産経新聞』2024年1月24日)

先日の能半島地震への台湾の皆さまからの寄付、本当に、感謝しかありません。

それで思い出したのが、『路(ルウ)』という一冊。何年か前に、波瑠さん主演でドラマをやっていて、当時台湾新幹線(台湾エクスプレス)とのフレーズにも惹かれ、手に取ったのを覚えています。

大枠では台湾新幹線を横糸として、そこに4組の男女の物語が縦糸として絡み、豊かな彩を与えていくような流れとなります。台湾、未だに行ったことがないのですが、風景、人々、食べ物、文化が、本当に目の前に浮かんでくるようでした、、ドラマのおかげもあると思いますけども。

1組目は、学生時代に台湾で出会った台湾人の男性と日本人の女性、阪神大震災、台湾大震災を経て、台湾と東京でそれぞれの「路」が交差します。彼らが生きてきた世代は、まんま自分とも重なっていることもあり、共感も一入でした。

2組目は、日本人の男性と台湾人の女性、夜の街での出会いから。離れていても大丈夫、離れていたら大丈夫ではない、どちらも正解かと。原作では、そんな家族の在り様の問題も描かれていましたが、、ドラマでは尺の兼ね合いもあったのか大分端折られていて、少し物足りなさを感じたのを覚えています。

3組目は、台湾人の一組の男女、幼馴染的な関係性から、一つの挫折を経て戻ってきた女性と、その息子を絡めての物語。果たしてこの二人が、どう「台湾新幹線」に絡んでくるのかと思っていましたが、なるほどなぁ、、と、この時代の台湾の若者、日本とも変わらないよな、とも。

4組目は、戦前・戦中に台湾で生れ育ち、戦後に日本に戻ってきた日本人夫婦、いつの日か、台湾に戻りたいとの想いを秘めながらの人生でしたが、、私の祖父(だいぶ前に亡くなりました)も戦中派で従軍もしていたとのことで、自分の祖父や、そのルーツ(祖父は日本生まれです)に想いを馳せたのを覚えています。

そんな4組の男女とそれを取り巻く人々や環境を、2000年から2007年までの間、1年に1エピソードくらいで連作短編のように描かれていきます。ある種ロードムービー的な感じでしょうか、それこそ題名の『路』が示している通りに。

人は何がきっかけで、どんな「路」を進むことになるのかは、本当にわからない、だからこそ人生は面白い、のでしょう。

ちなみに、波瑠さんのドラマは全3回でかなりに駆け足でしたが、原作との相互補完で、ドラマでは描き切れてない部分も想像しながら観ていました。個人的には6回くらいで組んでくれれば、もうちょっとそれぞれの想いや軌跡、、それぞれの路を描けたのかなぁ、とも。

ちなみに、劇中でもよく出てきた「台湾オリジナル」とのフレーズは、本質的には日本でも連綿と受け継がれてきていると感じています。

外来文化の受け入れからの日本仕様への変容(魔改造)は、有史以来の日本人の文化特性に通じる、と、そういった意味では、台湾の方々とは、普遍的な価値観だけではなく文化的な価値観をも共有できるのかな、なんて、李登輝さんを思い出しながら、久々に著作を再読したくなりました、李登輝さんもまた、私の祖父と同世代の方となります。

台湾の人が日本を思う気持ちに比べると、日本人が台湾のこと(台湾と中国のこと)を知ろうとする気持ちは、あまりにお粗末としかいいようがない。

出典:『路(ルウ)』

物語のフレーズとはいえ、ズン、とくる一言です、本当に、、今回もそうですし、折々で、日本に真っ先に寄り添おうとしてくれている人々とその友情に、もっときちんと知って、向き合っていけるよう、真っすぐに歩んでいけるようになりたいと感じさせられた、そんな一冊です。

それはそうと、ドラマでの波瑠さん、素敵だったなぁ、と今でも。

演出を担当した松浦善之助氏はビデオメッセージを寄せ、2011年の東日本大震災発生時に台湾から寄せられた支援に対してお礼をしたいとの思いが同作制作の出発点になったと明かした。

出典:「台日合作ドラマ「路」 出発点は「台湾にお礼したい」との思い=演出・松浦氏」
(『中央社フォーカス台湾』2020年5月15日)

余談ですが、友とはかくありたいモノ、です。

出典:『花の慶次 第四巻』


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?