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〈詩画集〉鴉の夢路


プロローグ


悪夢のような道をいく
天から業(カルマ)の流れに落とされて
その眼差しは後悔のない安堵の色
守ったものは唯一つの〈愛〉
命と居場所と未来 すべてを捨て
神に抗い「愛」ひとつ

その〈愛〉は「嫉妬」か「傲慢」か、或いは「怠惰」か「憤怒」
「強欲」に至る「色欲」か、果て無き魂の「暴食」
潔癖な神はその魂に〈罪〉の名をかせ突き放す
愛深きゆえに、罪に浸り
罪深きゆえに、愛を知る
混沌たる地獄に咲くその魂に
「人間」というその人生に

主たる神の姿を「人間」は模したという
ならば、その魂は何を模したというのだろうか
残酷で純潔
凄惨に儚く
その魂の歪な輝きは、心を捕らえて放さない
嗚呼、この身を天より堕とした我が主よ
この美しさを知る事は無いだろう
「綺麗は汚い、汚いは綺麗」
喝采を
その淀みの極彩色をこの世の淵より
我が愛する、人間たちへ
夢のような、儚い人生を


Insomnia


赤い空に鴉は啼く
月の眼光にその姿を捕らえられ
ただ見るだけの天の主に嘲笑を
溢れかえる孤独の淀み 理不尽な世界の歪み
その後光を照らし救うわけでもなく、ただ見るだけのその眼(まなこ)
悲嘆を子守歌に 絶叫を唄う
この怒りを糧に夜空を啼き駆ける
美しい罪 汚い正義
混沌の歯車に 錆びた観覧車
錆色の血潮に腐敗のモノローグ
明けない夜を飛び続け 果てない孤独に泣き叫べ
黒い情熱が果てるまで

「insomnia(不眠症)」2020年/273×220㎜
インク・紅茶・アクリル・水彩・ケント紙


フローラの遺言


終わりがある恋をした
別れの足音が風に乗ってやってくる
生まれ変わり永久の別れを繰り返す
ひらりと舞う、その背にこの声は届かない
崩れるヒトヒラ ヒトヒラに「愛」という呪いをかける
この花弁に触れ合いを
この花弁に刹那の思い出を
この花弁に永久の約束を
すれ違いという呪縛に貴方を閉じ込める
「忘れないで」と囁きながら
私という呪いを
此処に残して

「フローラの遺言」2023年/150×100㎜
インク・ケント紙

プシュケの伝言


生まれる前から知っている
約束された出会いの様に、その花に愛を囁く
命短いそのひとの「忘れないで」の言の葉
慟哭の花散る終わり
愛を乞うたび枯れていき、独り季節に残される
「忘れないで」
呪いの様にその言葉が風にのる
思慕の前に黒き常闇
鴉が一啼き、死を思う
食い千切られる羽を見ながら
まだ見ぬ未来に思いを伝える
舞い散る花弁の中に居るはずのそのひとへ
忘れられないその香りとその声を

「プシュケの伝言」2023年/150×100㎜
インク・ケント紙

微笑


その胸骨まであと少し
篭絡、傀儡の悪夢の果て
血を称え、血を啜る 闇夜に生きる高貴な花よ
身も心も全てを差し出し、この従順を貴女に捧げる
嘲笑の果てに捨てられて、墓場の残骸になろうとも
憎い貴女を乞い慕う
悪夢のように貴女をなぞる
胸骨まであと少し
愛した貴女の乳房を噛み切り、果てはその喉笛へ
陶器のような肌に流れる鮮血の香りを
嘲る私だけの
その微笑
甘美の嘆きを子守歌に
黄泉へと逝く旅路を思う

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