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構造デザインの講義【トピック1:構造とデザイン】第1講:良い建築とは

東京理科大学・工学部建築学科、講義「建築構造デザイン」の教材(一部)です



建物は様々な用途や使われ方のものがあり、多様な形や色のものがあります。
また、当たり前すぎて忘れがちになりますが、建物は安全に建っており、安心して建物の中で生活することができます。
しかし、安全な建物とは、一体どのようなものでしょうか。


以下の建物は、いずれも大空間構造の建物です。

東京国際フォーラムのガラス棟は、スチールデザインにより透明性が追及されている
東京カテドラルは、重厚なコンクリートの曲面で神聖な空間を演出している

それぞれの建物の目的や用途は異なりますが、特徴的なデザインであり、使用されている材料や構造も異なります。

言い方を変えると、建物の表現に合わせて、材料や構造が採用されています。
あるいは、材料や構造が、建物の表現や表情を支配することがある、とも言えます。
どんな建物も、支えるための構造があり、空間に応じて適切な構造を用いることが大切です。


それでは、お聞きします。
「良い建物とは?」

答えは、無限に存在すると考えられます。
例えば、古来より、用・強・美をバランスよく備えた建物が、良い建築である、とされています。(ウィトルウィウス、建築十書、紀元前後)


建築を学ぶ=デザインを学ぶ、というスタンスは、正しいと考えられます。
建築に携わる中で、そのような感覚は持ち続けるべきものの一つです。
また、建築分野のデザインには、さまざまなものがあります。

設計やデザインを考えると同時に、安全な建物を、正しく、確実に作ることも考えなくてはなりません。
建物に対して、ファサードと空間の表現やデザインに目が行きがちです。
それは、建物を支える構造は壁や天井、床などに隠れて見えない場合もありますが、構造が建物のフォルムを決定する事例や、表しとしてデザインされている建物もあります。

建物を作るプロセスの中で、構造をデザインし、設計するタイミングは様々です。
はじめに、建物の設計やデザインが与えられることもあれば、設計の初期の段階から具体的な構造のデザインや方式が議論され、建物の形状やデザインとして表現されることもあります。

「コクーンタワー」の楕円曲面体のフォルム、「幕張メッセ」の大屋根の曲面、「シドニーオペラハウス」の曲面は、どのような構造で作られているのか
ウォルトディズニーコンサートホール、まつもと市民芸術館の、特徴的な曲面

レガシー(遺産)としての建物、という言葉があります。
建物が後世に継承され、永く使われ続けることがあります。
そのような建物の、何が遺るのか、何を遺すべきなのか。
我々は、そこから何を学ぶのか、学ぶべきなのか。


オリンピックやワールドカップ、国際博覧会などのイベントでは、
・その時代の、そのホスト国の、
・最新・最先端の建築技術が導入され、
・国を挙げて、
・国の威信をかけて、
施設の準備が進められます。
建築関係者にとって、まさに一世一代のイベントです。

1964年東京オリンピックの施設は、その後も永く大切に使用され、人々の記憶に残るレガシーとして活躍した(国立競技場、国立代々木体育館)
2020東京オリンピックの施設はレガシーとして日本国民の大切な施設として永続していく(新国立競技場、武蔵野の森プラザ)

それは、伊勢神宮などの式年遷宮のように、技術や文化の継承、と通じるものを感じます。

建造物の意匠と技術、文明と文化の継承
20年に一度の伊勢神宮の式年遷宮は、20年に一度行われ、国を挙げた伝統技術・知識などの継承の国家的事業。その意義は大きい(左)
茅葺き屋根は、時代を超えて材料や技術が継承される(中)
かずら橋は、3年に一度架け替えられる。メンテナンスだけでなく、技術が継承される(右)
万里の長城は、建設された年代や地域により、使用されている材料や工法が様々(左)
石垣は、城郭や住宅などに使用され、文化的価値も高く、景観を彩る(中・右)

2020東京オリンピックでは、メイン会場・新国立競技場は、世界で最も注目される建物でした。
世界的な建築家による当初の案は、斬新、大胆、先鋭的であり、日本だけでなく世界を代表する建築として、大いに期待されました。
しかし、工期やコスト、建設技術など、多くの課題や指摘により、やむなく白紙撤回となりました。


パリの観光名所・エッフェル塔は、建設当時、建築家や芸術家から、酷評を受けて、建設反対などの抵抗を受けました。
ポンピドゥーセンターは、パリの景観にそぐわないという評価がありました。
京都駅は、古都の景観と調和しないなどの反対の声がありました。
シドニー・オペラハウスは、建設当初、様々な意見がありました。
しかし、これらの建築物は、今日では世界的に高い評価を受け、地元だけでなく、世界中の多くの人々に支持され、世界遺産として登録されています。

建設時、パリの景観にそぐわないということで、市民からの反対が多かった
しかし、今では世界中から多くの人々が訪れ、世界遺産に登録されたものもある
(中・右の写真はpixabayより)

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