『ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』

担当編集者が語る!注目翻訳書 第1回『ティール組織—マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』英治出版著:フレデリック・ラルー、訳:鈴木立哉、解説:嘉村賢州2018年1月出版

今年の1月に発行した『ティール組織——マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』は、おかげさまで各方面から大きな反響をいただいております。内容についてはすでに色々なところで語られていることもあり、またこのメディアを読まれている方は翻訳や出版に携わる方々も多いかと思いますので、本記事では本書がヒットした背景や、企画・編集プロセスなどについて共有したいと思います。

なぜ出版したのか

きっかけは翻訳者の鈴木立哉さんからのご提案でした。鈴木さんが持ち込まれた最初の版元では企画が通らず、編集者の方が英治出版への提案を勧めてくださったそうです(詳しい経緯はご本人のブログ「金融翻訳者の日記」をご参照ください)。

当初は、率直に言って、企画会議ではだれも「かなり売れそうだ!」とは考えていなかったと思います。むしろ「ティール組織なんて誰も知らないし、こんなボリュームの本を誰が手にとるのか?」という疑問もありました(その感覚は、予約開始直前まで続きました〔笑〕)。

しかし、それを補って余りある魅力が、本書にはあると感じていました。それは、以下のようなポイントです。

・ピラミッド型の階層構造の限界を的確に指摘。
「ブラック企業」が話題になるなど、これまでの組織のあり方に疑問を感じる人が増えているなか、既存の階層構造の限界を指摘し、新たな方法論を提示している。

・世界中の企業を調査。業界・規模など多様な事例がもつ説得力。
実例にもとづいており、机上の空論でない。しかも「あの組織だからできる」という例外的な印象はなく、納得感がある。

・一見、夢のような組織論。でも「こんな組織が増えれば社会は変わりそう」というワクワク感がある。
「売上ではなく、存在目的に従って行動する」「上下環境も予算もなく、意思決定はすべて自分たちで行う」「人事部がなく、評価や給料も自分で決める」といった、非現実的に見えるものの、心を惹かれる組織のあり方が示されている。

本書を出版するにあたり、社内では「どうすれば届けたい読者に届くか」が真剣に議論されました。これまで当社が出版を通じてご紹介してきた本に通底する、「学習する組織」「U理論」「ダイアローグ」「マインドフルネス」などの方法論が包括的に紹介されていることもあり、「長い目で見れば売れつづけるであろう」という直感から、「チャレンジしてみよう」という空気が生まれ、企画が決まりました。

ヒットを生んだのは「コミュニティの力」

企画会議が行われたのは2015年8月でしたから、制作に2年半もかかったことになります。翻訳書であることを考えても長い時間ですが、結果としてはこのタイミングでの出版がベストだったと思います。なぜなら大きく2つの点で、本書が広がる「機運」が生まれてきたからです。

まず、解説をお願いした嘉村さんとその仲間たちが少しずつ醸成してきた「草の根のコミュニティ」の存在が、本書の認知拡大に大きな役割を果たしてくださいました。嘉村さんが本書の存在を知ったのも企画時と同じ2015年。嘉村さんは、新しい組織の探究に関心ある人々を募って「オグラボ(OrgLab)」を立ち上げ、2年間をかけて、世界中の実践者とつながり、ワークショップや来日イベントなどを通じてコミュニティを広げていったのです。

次に、ブラック企業や過労自殺などの社会問題化、リモートワークや副業など働き方が多様化するなかで、「働き方改革」が政治・経済両方の大きなテーマとなりました。しかし、単に労働時間を減らしたり、多様な働き方を奨励したりすることが、望む成果に直結するとは限らず、マネジャー層への過剰負荷や評価・報酬の格差など、さまざまな問題は残ったままです。「本質的な解決策は別の観点にあるのでは?」という問題意識が広がりつつありました。

こういったボトムアップの動きと社会的潮流がうまくマッチし、本書のヒットにつながったと考えています。何よりも実感したのは、「コミュニティの力」です。

先述したように、もともと大きなヒットは想像しておらず、「関心ある読者にじわじわと広がっていくだろう」と考えていました。しかし、予約開始直後、その予想は良い意味で覆されました。解説の嘉村さん、推薦者の佐宗さんが予約ページを告知した途端、雪だるま式でシェアが広がりました。

また、本書の原題は「Reinventing Organizations(改革する組織)」ですが、タイトルにあえて「ティール」という認知されていない言葉を使って「新しさ」を演出したこと。そしてビジネス書では珍しい、「ティール(青緑)色」のデザインも好感を得られました。デザインは巨匠・竹内雄二さんにお願いしましたが、私の「硬派かつ未来感のあるデザイン」という曖昧なコンセプトを、見事に表現してくださいました。

独自の販促策「読書会ガイド」と「ゲラの無料提供」

年末の爆発的な売れ行きを受けて年明けに緊急ミーティングを開き、増刷部数、イベントの企画、新聞広告出稿、メディア・プロモーションの方針を決めました。加えて、本書独自の施策として「読書会ガイドの作成」「ABD用の無料ゲラ提供」を決めたのもこのときです。

「ABD=アクティブ・ブック・ダイアローグ」とは、1冊の本を分担して読み、まとめた内容を共有しながら、さらに、気づきを深める対話をする画期的な手法です。出版告知の拡散が広がった年末年始、すでに有志による読書会が私の知っているだけでも4~5つ以上企画されていましたが、大半がABDを採用したものです。ABDは、ほぼ全員が未読で、本の全体像を把握したい場合などに有効です。まさに、約600ページという大ボリュームの本書を読み通すのにうってつけだったのです。

この方法論は経営者・ファシリテーターの竹ノ内壮太郎さんによって開発されましたが、『ティール組織』解説者の嘉村さんが熱心に普及活動に取り組んでいらっしゃいます。1年くらいまえから、各地でABD読書会が行われてきました。

弊社もABDの可能性を感じ、実は本書出版の3カ月前に、出版前のゲラを使って嘉村さんのファシリテーションで英治出版のスペースで読書会を開催しました。たった1日で集合知を結集して「読み切った」という感覚にさせ、本書に対する親近感や貢献意欲も高められるという、一挙何得も得られる方法論だと実感しました。

通常のABDは一冊の本を分割する必要があるため、「希望者へのゲラの無料提供」を決めました。また、読者による自発的な読書会の動きをさらに加速すべく、ABD紹介を含む「読書会ガイド(※PDF)」を嘉村さんのご協力を得て作成しました。3月1日に弊社のFacebookページで告知すると、予想以上の反響があり、これまで読書会ガイドのダウンロード数は1000以上、ABD用のゲラ提供先は50カ所以上にのぼっています。

この自発的な動きは、いまだに広がり続けています。そういう意味で本書は、新しい組織論の地平に加えて、「新しい読者コミュニティのあり方を切り拓いた本」と言えるのかもしれません。

執筆者:下田理(英治出版 プロデューサー)


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