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おばあちゃんの「ガールフレンド」

はじめに

『私がホームレスだったころ』(白水社、2021年)の翻訳を手掛けられた橋本恭子先生にお声がけいただいて、今、『おばあちゃんのガールフレンド』という台湾の書籍を日本語翻訳出版するクラウドファンディングのプロジェクトにメンバーとして参加している。原題は『阿媽的女朋友』で、阿媽は台湾の言葉で血縁の関係あるなしにかかわらず「おばあちゃん」を、女朋友はガールフレンドを意味する。台湾で2020年に出版された書籍で、1998年に創設された台湾初の全島的なLGBTQ支援組織・台湾同志ホットライン協会が企画したものだ。

どんな内容かというと、55歳から83歳(インタビュー当時)の17名の中高年レズビアンにインタビューを行い、それぞれがどのような人生を送ってきたのかを赤裸々に綴ったノンフィクションだ。この本の魅力やこの本を日本語で翻訳出版することの意義については、橋本先生がとてもわかりやすくまとめてくださっている↓↓↓こちら↓↓↓のサイトをご参照ください。

台湾の17名の中高年レズビアンによるオーラルヒストリーを集めた本書を読み進めていくと、同性(女性)を愛しながらも当時の価値観や周りのプレッシャーに押されて異性(男性)と結婚し…というパターンが少なくないことに気付かされる(果たして彼ら彼女らはそこからどのようにして自分の人生を取り戻していくのか、ぜひ沢山の方に読んでいただきたい部分である)。台湾映画にも「同性を愛しつつも異性と結婚し…」がストーリーの鍵となる作品がある。『おばあちゃんのガールフレンド』をきっかけに、今回はそんな4本の台湾映画を紹介したい。

「同性を愛しつつも異性と結婚し…」がストーリーの鍵となる台湾映画

その1『明天記得愛上我』(2013年台湾)

『台北の朝、僕は恋をする』のアーヴィン・チェン監督による作品。
結婚して10年近くが経とうとする30代のとある夫婦。妻は息子(6歳)のためにも二人目を望んでいるが、夫はそれにこたえることができない。なぜなら、夫は仕事場のメガネ店である人物と出会い、それまで封印してきたかつての自分を取り戻しつつあったから…。ストーリーのもう一つの柱となる夫の妹とその恋人とのエピソードや、夫婦それぞれをとりまく人々とのやりとりも、それぞれがふとした出来事をきっかけに立ち止まり、自分にとっての幸せってなんだろう?と模索する内容だ。ストーリーは軽やかなテンポで進んでいく。

日本では東京国際レズビアン&ゲイ映画祭(現在の東京レインボーリール)、関西クィア映画祭、そして今は亡きアジアフォーカス福岡国際映画祭で上映されたが、どうして全国公開しないの?って思わずにはいられないくらいの良作。もっと言うと、是非家族で見て!カップルで見て!ってお勧めしたくなる作品である。

[作品情報]
『明天記得愛上我』(Will you still love me tomorrow?)
2013年|台湾|104分
監督・脚本:陳駿霖(アーヴィン・チェン)
出演:任賢齊(リッチー・レン)、柯宇綸(クー・ユールン)、范曉萱(メイヴィス・ファン)、夏于喬(キミ・シア)、石錦航(ストーン)

その2『日常対話』(2016年台湾)

ひとつ屋根の下、赤の他人のように暮らす母と私。
母の作る料理以外に、私たちには何の接点もない。
ある日、私は勇気を出して、母と話をすることにした。
私はビデオカメラを回し、同性愛者である母の思いを記録する。
そして私も過去と向き合い、ある秘密を母に伝える…。

2019年にアジアで初めて同性婚が合法化された台湾。だが、1950年代の農村に生まれた母親がすごしてきたのは、父親を中心とした「家」の制度が支配する、保守的な社会だった。娘で本作の監督は消えゆく台湾土着の葬送文化<牽亡歌陣>とともに、レズビアンである母の、ありのままの姿を映像に収め続ける。多くを語りたがらない母に、娘が口に出せずにいた想いをぶつけるとき、世代や価値観を越えてふたりが見つけ出した答えとは──?

台湾映画同好会が昨年日本で公開したドキュメンタリー映画。
本作のディレクターズノートともいえる手記『筆録 日常対話 私と同性を愛する母と』の中には、映画にはあまり描かれていない父親のことも詳しく書かれている。母親と歴代の彼女たちの物語は『おばあちゃんのガールフレンド』にも通じるのでぜひ。

[作品情報]
『日常対話』(日常對話、Small Talk)
2016年|台湾|88分
監督・撮影:黃惠偵(ホアン・フイチェン)
製作総指揮:侯孝賢(ホウ・シャオシェン)
日本公式サイトはこちら 


その3『那個我最親愛的陌生人』(2019年台湾)

認知症を患っている元軍人の夫と、歌仔戯(台湾オペラ)の役者として家族を養い、夫の介護をする妻。夫の誕生日にかつて同じ部隊に所属していた友人が訪ねてきて、病の床に臥せっている母親を見舞って欲しいと頼まれる。娘と孫に付き添われ、友人の実家を訪ねる夫。「早く帰ってきてね」と妻は何度も念を押すが、3人はその日帰宅することなく・・・。

夫とその友人の関係が、30年という長い年月を共に過ごしてきた老夫婦には、それぞれが口に出せずにいた、というか「ないもの」として目をそらし続けてきた感情の原因であり、それが吐露されていく描かれ方が、もうとにかく素晴らしい。公開された2019年の金馬奨で、最優秀監督賞、最優秀主演女優賞(呂雪鳳(ルー・シェフォン))、最優秀助演男優賞(李英銓(リー・インチュアン))、最優秀視覚効果賞にノミネートされている。

映画『きらめきの季節(原題:美麗時光)』(2002年)、『暑假作業(邦題:夏休みの宿題)』(2013年)、『酔生夢死(原題:醉‧生夢死)』(2015年)の張作驥(チャン・ツォーチ)監督による2019年公開の作品。性暴力で収監されていた張監督が刑期を終え、最初に世に送り出した作品だからなのか、日本語の情報はかなり少ない(クィア作品でもあることに触れているものは皆無だった気がする)。日本未上映。

[作品情報]
『那個我最親愛的陌生人』(Synapses)
2019年|台湾|116分
監督:張作驥(チャン・ツォーチ)
出演:呂雪鳳(ルー・シェフォン)、張曉雄(チャン・シャオロン)、李夢(リー・モン)、李英銓(リー・インチュアン)

その4『聞いちゃいない』(2021年台湾)

先日、こちらのオンラインイベントで最近鑑賞の機会に恵まれた、2021年の短編作品。

目覚めたら、なんと自分は死んでいた!
長年連れ添った妻と子供たちに取り囲まれ、バタバタと自分の葬式の準備が始まる…。

監督はドキュメンタリー映画『河北台北』(15)の李念修(リー・ニエンショウ)。『河北台北』は中国河北省で生まれた監督の父親を被写体に、国共内戦や朝鮮戦争を経て現在に至るまでの波乱に満ちた人生をたどった作品だったが、本作はその父親の最期を劇映画として描いた短編映画。ブラックユーモア満載ながら、ラストは涙が止まらなかった。秀作。どうやら長編化の予定があるようなので(日本で公開されることを期待して)あまり詳しくは書かないが、長年連れ添った夫婦の抱えていたわだかまり(あるいは、妻が見て見ぬ振りをしてきた夫の本心)を、ラスト付近の川べりで繰り広げられる京劇のワンシーンを演じるふたりの姿に託して描き切っていて、素晴らしかった。

[作品情報]
『聞いちゃいない』(講話沒有在聽、 Can You Hear Me?)
2021年|台湾|36分
監督・共同脚本:李念修(リー・ニエンショウ)
出演:金士傑(ジン・シージエ)、楊貴媚(ヤン・グイメイ)、張詩盈(チャン・シーイン)

おわりに

「同性を愛しつつも異性と結婚し・・・」という中高年の物語は、個人の体験として日本にも沢山あるのだろうなと思う。そして今回ピックアップした4本の作品中、レズビアンの物語は1つしかない。

「女性の物語は足りていない」

・・・と、最後に『おばあちゃんの~』プロジェクトメンバーのひとり、読書サロンのティーヌさんのお言葉を引用して終わりにしたいと思う。「ああ、確かに、女性の物語って足りてないよね」と思わましたら、ぜひ『おばあちゃんのガールフレンド』クラウドファンディングにご協力をお願いします!


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