【短編】ヒマワリ畑のかくれんぼ
幼いころ、1人の女の子とヒマワリ畑で遊んでいたことを憶えている。
よくおにごっこをして遊んでいたけれど、記憶の中で一番鮮明に残っているのは、かくれんぼをして遊んだことだ。
子どもの背丈よりも高いヒマワリ畑では、隠れた彼女をなかなか見つけられない。
あの日はボクが鬼だったのだけれど、日が暮れるまで探し続けても、君は見つからなかった。
だから、どこに隠れていたのかを知りたくて、次の日も、君に会うためにヒマワリ畑へと向かったのだ。
だけど、かくれんぼをして遊んだあの日を最後に、彼女と会うことは2度となかった。
――ヒマワリ畑は、思い出の中の彼女を今も隠し続けている。
大人になって故郷に帰ってきたボクは、一面に広がるヒマワリ畑を望みながら、そんな感傷に浸っていた。
彼女と遊んでいたころは、どれだけ背伸びをしても、中に入ってしまえば外を見ることができなかったヒマワリ畑。
大人になって初めて、無限に広がっているように思えたヒマワリ畑にも、終わりがあることを知った。
しばらくヒマワリ畑の中を歩き続けて、反対側に出ると、幻想的な景色が視界に飛び込んでくる。
そこは、青く美しい海が一面に広がる崖だった。
風に揺れて、草花が心地の良い音色を奏でている。
しかし、そんな景色がちっぽけに思えるほど、ボクはあるものに心を奪われていた。
「…………」
心を奪われたのは、この場所に1人で佇んでいた女の子。
彼女と視線が交錯する。
見知った姿とはすっかり変わってしまったけど、その面影は何も変わっていなかった。
「見つかっちゃった」
「え?」
少し遅れて、彼女があの日のかくれんぼの話をしていることに気がつく。
「本当に久しぶり、16年ぶりかな?」
「いや、17年ぶりだよ」
「あーあ、残念。絶対に引っかかってくれるって思ったのに。
でも、ちゃんと憶えていてくれて嬉しい」
そう言って、君はくしゃりと笑う。
それにつられて、こちらも自然と笑みを浮かべていた。
その後は、お互いにつもる話があるということで、少しお茶をした後に、また会う約束をして別れを告げた。
これでかくれんぼは、もうおしまい。
ボクたちは17年前と変わらず、2人で過ごす時間を笑顔と共に分かち合っていた。
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