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『騙し絵の牙』(2021年の映画)

偶然と外的要因によって映画を選んだ回。

数奇な運命に導かれて『騙し絵の牙』という映画を見てきました。
普段は、カルマ調整を提唱し、物語の構築とかテーマとかサイコロとか、そういった基準で映画を選んでいるのですが、今回はありとあらゆる角度から結ばれた縁故で足を運んだ珍しいケースとなりました。『機運』ってやつです。

様々な要因

①知ってるバンドがなぜか劇伴を担当
②ちょっと前に呼んだ本の人が原作を執筆
③原作の人が推しの俳優にあて書きをした原作を本人が映画化
④監督がBassMagazineに連載しているコラムを目にする

この時点で内容はよくわからないけど、知ってる原作者が知ってる役者をモデルにした映画をベーシストの監督が知ってるバンドを読んで撮影したということがわかりました。じゃあ、様子を見に行ってみるか。「ゆこう」「ゆこう」そんな程度でお出かけしたわけですよ。

その結果

とても面白かったです。アラも多いし、物語の骨子となる出版業界のディティールが古い気もしますが才能情報遺伝子が伝播されていく描写が非常に素晴らしかったですね。変革の足を止めないものが生き残る、というのは冒頭シーンとの対比となっており普遍的(エバーグリーン)なテーマで良かったと思います。

あらすじと感想

あらすじ
大手出版社「薫風社」に激震走る!かねてからの出版不況に加えて創業一族の社長が急逝、次期社長を巡って権力争いが勃発。専務・東松(佐藤浩市)が進める大改革で、雑誌は次々と廃刊のピンチに。会社のお荷物雑誌「トリニティ」の変わり者編集長・速水(大泉洋)も、無理難題を押し付けられて窮地に立たされる...が、この一見頼りない男、実は笑顔の裏にとんでもない“牙”を秘めていた!嘘、裏切り、リーク、告発。クセモノ揃いの上層部・作家・同僚たちの陰謀が渦巻く中、新人編集者・高野(松岡茉優)を巻き込んだ速水の生き残りを賭けた“大逆転”の奇策とは!?
Filmarksのあらすじ紹介より)

「難しい挑戦でなければ面白くない」「誌面の面白さこそが正義だ」というハードコア編集マン速水(大泉洋)がビジネスのために手段を選ばす邁進する姿を描く、というのが表向きの内容になっているのですが、その裏側には「ミーミーの伝播」と「もしかして俺は怪物を育ててしまったのではないか?」という裏テーマが見え隠れしている。彼は意外なほど純朴で打算や偶然に頼り、切れ者の外見を糊塗している。

一見して、狂人めいたなんでもありで自由に動く速水(大泉洋)がナイトクローラー太郎に見えるのだけど、彼は狂言回しに過ぎない。徐々に明らかになる彼の泥臭く真摯な「良いやつ」っぽさと反比例して、ある人物の狂気が浮かび上がってくる。

そう、本作の真の主人公は、速水に振り回される視点人物に徹している新人編集者・高野(松岡茉優)である。『蜜蜂と遠雷』でも圧倒的な演技を見せた彼女は、本作でもただごとではない狂人ぶりを発揮している。とんだタヌキ女ですよこいつは。

冒頭のシーンを思い出してみよう。

無人のオフィスで小説の原稿を広げる新人編集者。獰猛な笑みを浮かべながら新人賞の原稿を読み耽り、電話の呼び出し音に驚いて原稿の上にコーヒーを倒してしまう。彼女は、受話器を戻して通話を切断し、原稿の救出に最善を尽くす。電話の内容は明らかにされず、物語は出版業界を巻き込んだ大事件へ発展する。

すべてにおいて彼女は原稿を最優先する。彼女は己の独断で物語の広がりを断ち切ることができる人間なのだ。
自身の意志(エゴ)によって世界を変革することができる、これ以上主人公としてふさわしい存在はあるだろうか。

書籍を読んでモデル地形から聖地を割り出して訪問する、いわゆる聖地巡りは誰だってするだろう。だけど、出版前原稿の改稿バージョン差分から土地を割り出すならどうだろうか。狂気の沙汰である。その彼女の狂気的な熱情をLITEの緻密で緊張感にあふれる劇伴がカバーしている。

全ての隆盛は表裏一体で、吐いた言葉は全て自分自身に返ってくる。勝利は敗北の始まりでピンチこそはチャンスだ。単純なビジネスゲームの因果応報で終わりにしない《走ることを止めない》ことこそが生存に必要であるという普遍的なメッセージは心強いものだと思う。

そして、そのメッセージこそが大泉洋を主演に招いた意味であろう。

「たどり着いたらそこがスタート、ゴールを決める余裕なんて今はない」

と、大泉洋を称える碑石にも記されているではないか。

『騙し絵の牙』事前情報がなかったものの、非常に鑑賞しがいのあるユニークな作品でした。特殊な技術を狂人に教えてしまったフェチの方には、非常にオススメです。

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もしかして、こういう日ごろの行いが試されるのもカルマ調整の一種なのかもしれませんね。アンテナを横に広げるのも楽しいことだ。



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