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【小説レビュー】妖怪処刑人 小泉ハーン【カマイタチ狩り】

『妖怪処刑人 小泉ハーン』すっごく面白い。
予想してたノッペラボウ爆殺!みたいなノリだけでなく、舶来の猟兵が蕎麦屋の主人にガレットを教えて老夫婦がガレット屋に転身する、とかやるんだよ。遠く離れた異国でも食物の材料は同じだし手法や信念が異なっても目指すものは同じなんだ。 もちろん爆殺もする。
望月貴菜子さんのTweetより *略称や改行等は筆者が補足*)

すぐれた作品ほど読者の感想や説明が短くなる傾向がある。
それはシンプルなストーリーやキャラクター設定の行間に詰め込まれ圧縮されたなにかをイチから説明し始めた場合に原典より長い文章になることを避けるために生まれた人類の防衛本能だ。

なので、『妖怪処刑人 小泉ハーン』についてのオススメは、この1 tweetで十分ですよ。とにかく読んでください。めちゃくちゃ面白いよ。これは読む人によっては特別な一冊になる可能性があります。特に蕎麦屋が異人に授けられたレシピでガレット屋に転身する系の話(けっこうあるよね)が好きな人にはマジで。

なお、[今だけ無料] Cakes でも「ハーン」本編のガッツリ試し読みができます。ノッペラボウ銃殺!!が文字通りであることを身をもって味わえ!

さあ、書店とか電子書店に走れ!!追いつかれたらどうする。
(本編おわり)

クールダウン後はカマイタチ狩りの感想が始まるよ。

小泉☆クールダウン☆八雲

ラフカディオ☆小休止☆ハーン

よくきたな。オレは毎日よくわからない文章を書いているが誰にでもわかるように書いているつもりはない。なんかのパッションが誰かに伝わってクリティカルヒットすることを願ってランダムに白羽の矢を放つ業務をしたり、王宮の小枝をお前を燃やすために集める業務を生業としているものだ。 *Ojigi*

今日は『妖怪処刑人 小泉ハーン』の収録作品のうち、特に心を奪われた【カマイタチ狩り】の話をする。

(あらすじ)
日本最後の妖怪猟兵(ヤーヘル)として怪異を狩り殺す旅を続ける小泉ハーンは薩長政府に招かれ怪事件の裁判に関わることになる。桂という男の証言によれば、友人が山中で目に見えない怪物《カマイタチ》に襲われ虚空で踊るように切り裂かれて死んだのだという。裁判所はその証言の採用を拒否、桂によるフレンドリーファイヤ的な事件であると結論付けようとする。それに異議を唱えたハーンは相棒を伴い事件現場の山小屋へ向かう。そこには意図的に切り取られ隠された日記があり、切り離されたページを発見したハーンはカマイタチの実在を確信。《妖物(ダムドシング)》狩りを開始する。

劇中でハーンがつぶやく《妖物(ダムドシング)》は実在する怪異事件として『世界怪談名作集』でも語られている。

(あらすじ)
山中の山小屋に集められた男たち。中心にはおぞましい傷の死体。検視官は被害者の友人から死亡時の目撃証言(透明な獣に襲われたんだ!)を聞き取るが男たちは一笑に付しマウンテンライオンの仕業として山小屋を出ていく。事件は解決した。検視官は被害者の残した正気を疑う引き裂かれた日記を握りしめ……(物語はここで終わっている)
世界怪談名作集より《妖物(ダムドシング)》
 青空文庫/アンブローズ・ビヤース/岡本綺堂
http://www.aozora.gr.jp/cards/001066/files/4091_13934.html

如何だろうか。《妖物(ダムドシング)》と呼ばれる米国山中に出没する不可視の怪物。このアンブローズ・ビヤースの遺した未解決事件の恐怖を克服するためにトレヴォー氏は肉体を鍛えペンを握り妖物にカマイタチと名付けて小説の中で完膚なきまで爆殺した。未解決事件が一つ消え眠れるようになった米国人も多いはずだ。すごい作品だ。未解決事件の墓を暴いてダイナマイトを投げ込み殺す。それほど作者はノッペラボウを激しく憎んでいるのだ。

情熱やパッションで描かれる作品は鑑賞者にも伝播する。原作者紹介の「ノッペラボウを激しく憎む」やあとがきの「俺はノッペラボウに恐怖し憎み体を鍛えた」を初めて読んだときに感じたオモシロ感はすでに消え失せ、妖の東西を問わぬ恐怖と怒りの伝播がオレを支配した。この小説を知ってしまった以上、読者は身体を鍛え怪異に備えなければならない、小泉ハーンを読むときは片手にピストル、心に信念(グリット)、唇に火の酒、背中に気概(ガッツ)を備えて付き合うべきだろう。これは真の男の小説だ。


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