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屋久島で体感した『快=善』

2023年6月初旬。屋久島へのツアーに行ってきました。
テーマは風土探究・食×土です。
自然の循環がすぐ近くにある屋久島。「誰もが毎日やっている食べること、それは一番身近な、自然に手を入れること」を体感するのに、これ以上ぴったりの場所はないと考えての企画でした。

折しも台風接近中。航空便が欠航し急遽高速船に乗り換えて上陸。
何とか屋久島の神様に呼んでもらえたようでよかったですw

食の循環に加わる

今回宿泊でお世話になったのは、自然環境への負荷を最小化する暮らしをつくっているエコビレッジ・アペルイさん。

エネルギーは自給、共同購入・量り売りでゴミを出さない暮らしを実践、無農薬・無肥料で農園を作っていらして、今回のツアーはアペルイがあったからこそ実現できたようなものでした。

オーナーの俊三さんにアペルイのフィールドを案内してもらいました

そのアペルイで体験したのが、食の循環の一部に加わること。
アペルイのフィールドを説明してもらいながら、田植えを手伝わせていただいたり、夕飯の材料となる野菜を収穫したりしました。

トイレのし尿は2段階で発酵させ畑の堆肥に
菌がしっかり分解しているので全くにおわない
農園には食べごろのキュウリやナスがいっぱい
マルチシートの下は土の栄養になるよう集めた落ち葉などが積み重ねられています
よく膨らんだいんげん
手植えでの田植えも体験しました
食材を収穫中
宿のすぐ前にも食べられる草が

収穫した野菜は、薪のかまどで調理し、みごとな天ぷらに!
お塩でいただきましたが、野菜そのままの味がしてすごくおいしかったです。

ちなみに上記の通りアペルイの農園では、化学肥料や農薬を使っていません。
植物に栄養を与える土の中の微生物を増やし、土の外でもさまざまな種類の生き物がお互いバランスを取るようにして、虫などによる害が起きないようにしています。

本来備わっている自然の中で生命が育つ力を存分に発揮できるよう働きかけることで、食べるものが手に入れられる。
”出すもの”も含め、人がそのサイクルの一助となれる。
アペルイのフィールドは、まさに食べることが自然の手入れにつながることを身近に実感できる場でした。

屋久島の山の森と土

屋久島といえば木々が繁る自然豊かな島というイメージの方が多いと思います。

でも実は岩石質の地質で、表土がとても薄いということをご存知でしょうか?
屋久島は花崗岩という固い岩石が隆起してできた島です。その上をおよそ7,300年前の海底火山の大噴火で流れ出た火砕流が覆いました。
豊かな森のイメージと裏腹に、屋久島の土はその上をうっすら覆っているにすぎません。

苔と薄い土のすぐ下は火砕流後の赤土が出てきます

養分豊富な土が少ないため、樹々はとてもゆっくりしか成長できません。1年に成長する厚みが薄く、年輪が詰まっているのが屋久杉の特徴です。
さらに屋久杉はたくさん降る雨から身を守るために樹脂を多く分泌します。
この高密度に詰まった年輪と樹脂分の多さこそが、屋久杉を折れにくくし長寿命化させているのです。

屋久杉の断面

そんな屋久島の山の土は現在どうなっているのか?
今回は縄文杉と並んで有名なトレッキングコース、白谷雲水峡をフィールドに見学に行ってきました。

白谷雲水峡

雨だれ石をうがつではないですが、人が歩くと未舗装の道の表面は少しずつ削られていきます。
登山道もそれは同じこと。登山客が通るにつれ少しずつ削れていって、登山道は周りより一段低くなってしまうのです。
そして踏み固められた登山道が山の地中の水や空気の流れを遮断してしまうと、土砂崩れなどの遠因となることも考えられます。

山の観光利用が自然を傷めているーそんな状況を変えようと、最近は山岳ガイドの有志が登山道の修復に取り組んでいます。アペルイの俊三さんもそのお一人。
そこで俊三さんに、登山道と修復の様子を解説してもらいました。

修復の現場を解説してもらいます
登山道が周りより低くなっているのが分かります

現場は国有林内。それもあり付近にある資材を使い、なるべく自然に近い環境を再現しようとする「近自然工法」という方法を取り入れ修復されています。

修復後の登山道
今回ツアーにスルーガイドとして同行して下さった島結のささっちょと

俊三さんいわく、登山道修復で大変なのは、必要な資材を現場まで集めること。登山するゲストが、石一個、砂袋一袋など、その人にできる範囲でいいので資材を運ぶことができたら、作業がすごくはかどりそうです。

今回訪問した現場は国有林内ということもあって、人が手を入れる際には事前の許可手続きや調整が必要ということで現場での作業はせず見学だけにしました。
でも可能な現場では、訪れる登山客が修復に参加できる機会があるといいですよね。

心地よさがカギ ー 大地の再生ワークショップ

あいにく白谷雲水峡では難しかった自分たちの手による自然のお手入れは、里で体験することにして、アペルイのフィールドで大地の再生ワークショップを開催してもらいました。

まずはビフォーアフターで土壌にどんな変化が起きるのか、解説してもらいます。

人の通り道は土が踏み固められて植物が生えない
踏み固められた土のかたまり
置き石を置いて土を直接踏まないようにした手前側は植物が生えている
有機物の下の土を触ると、確かにふかふかして柔らかい感触
溝を切ると地中に水の流れが生まれて空気も動くように

そしていよいよ自分たちで体験する番が回ってきました。
草が茂って鬱蒼とした感じの場所を切り開き、風通しを良くします。

俊三さんによると、イヤな感じがするところに手を入れればいいのだそう。
人が見てイヤな感じがするところは、空気や水の流れが滞り、他の生き物にとってもいい環境とは言えない場所なのです。(※)

※一方で、人が不快と感じるヤブを好む生き物(例:スズメバチやマムシなど)がいるのも事実です。どこまでの自然の不快性を許容すれば自然とうまく調和しながら人が生きていけるのかを探究していきたいと考えていらっしゃる旨、俊三さんから補足・コメントをいただきました。

みんなで横一列になって目の前の草を切り開きました

どのくらい切り開けばいい、という正解もありません。
「ああ、気持ちよくなったな」と感じるところがひとまずのゴール。

実際作業が終わった後反対側から振り返ってみると、作業前にはなかった風が通り抜け、ちゃんと空気が動いているのを感じました。
時間にしてわずか10分足らず。必要なのは鎌一本。
イヤな感じを素通りせず、突っ込んでいくかどうかが違いを生むという俊三さんの言葉が心に響きました。

アペルイの縁側から眺める朝のフィールド

一般に自然を守ること、環境のためになることをするというと、節制したり、何かを我慢したりすることのように考えてしまいます。
それはあたかも快を求めることとは対極にあるよう。

でも今回の屋久島ツアーで感じたことは、心地よいと思うこと・自分の快に従うことと自然のためになることは、両立できるということ。
「あれ?」という違和感を見逃さず、わざわざ手を動かすかどうか。

でも実際やってみた後の心地よさを体感すると、きっとわざわざと感じるより、ついやりたくなっちゃうと思いますよ!

現場で体感することって尊いな、と改めて感じました。

【番外編】その他ツアーの様子

アペルイの田んぼ越しに望む前岳
白谷雲水峡から下山直後にいただいたタンカンかき氷
めちゃくちゃ美味しかったです
安房川の夕景
熱いお湯が病みつきになる尾之間温泉には3泊中2日入りに行きました
島出身でご実家が漁師という「漁師の暮らし体験宿ふくの木」の中島友野さんに、トビウオの水揚げ日本一の安房を案内してもらいました(写っているのは安房港の浜えびす)
獲れた魚を無駄なく活かそうと漁師からくんせい屋に転身したけい水産・田中さんにもお話しうかがいました

Special Thanks!!

屋久島エコビレッジアペルイ
屋久島アウトドアガイド島結
NPO法人うお泊屋久島
くんせい屋 けい水産


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