感想文:THE DEAD
THE DEAD/釣崎清隆
「死体写真家」
私はなんだか涙が止まらなかった。
ほんの好奇心だった。彼を知ったのは。
死体を載せた写真集。
夕飯を食べながらその写真集をパラパラと流し見ていた。
グロテスクな光景が強すぎる、エンタメ的見せ方かと身構えたが、全く、そんな低俗なものではなかった。
1枚、1枚をじっくりと観察したい、細かなディテールまで再現したいと思うような写真ばかり載せられていた。
そこに、彼の写真に対する気品と誇り高い技術が現れているのだろう。下品さが全く感じられない。
私は彼の写真に対する向き合い方を凄く見習いたい。
1枚の写真に賭ける。
ここという場面がフレームに収まるのを確認するまで、シャッターは切らないのだという。だからある統一された美学が見えてくるのだと考えた。
後半、美しい手がちぎれた写真が載っていた。
これは彼を代表する有名な1枚だという。
「美しい手」と言われるくらい、それは美しかった。
作り物に見えてくるくらい、作り物と言った方が正しいくらいに綺麗だった。
写真集をめくっていくと、死体安置所が幾ページに渡って撮されていた。
私はなんだか涙が止まらなかった。
それから写真集の最後まで、ずっと泣いてしまった。
1番に思い浮かんだのは、これが人間の肉体の最後だと言うこと。もう使われる事のない肉になってしまった。
一瞬にして命が無くなることを私は知っている。
1番遠いようでいつもピッタリと私にくっついている事を。
父が思い浮かんだ。
私の前で倒れ、そのまま亡くなった父が。
死に惹かれるのは、彼と繋がっていたいからかもしれない。
幸せだっただろうか。
死に際、何を考えていたんだろうか。
考える間もなく逝ってしまったのか。
そうだといいのだけど。
そんな事がこの写真集に集められた全ての人にあっただろうか。
何十年と使い古してきたその肉体の終わりがそこで良かったのか!
私は問いたい。
死ぬ時は幸せだった?
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