見出し画像

保育ママのタタさんが教えてくれたこと

覚悟を決めた日、タタさんは私の顔をみると「決断しましたか?」と。保育園が決まったので辞める等の話は一切していなかったのですが、やはり全てをお見通しでした。そこからは、それまでの一緒に娘を育ててきた思い出が走馬灯のように蘇り、涙でうまく話せませんでした。

娘が生後3ヶ月からお世話になってきた保育ママのタタさんを、2歳半で卒業することになりました。「保育ママさん卒業にむけての葛藤」でも書いたように、予定していたよりも一年早く、急な決断でした。
タタさんの休暇中、会社の一時保育に預けたことをきっかけに、たまたま9月からの枠に入れることになったのですが、予定していなかっただけに、心の準備ができずに悩んでいたのでした。

日本人の親の「信頼」

タタさんは何度も「私のことを信頼してくれてありがとう」と繰り返していました。保育ママ仲間から「両親共に日本人の子を預かっているなんてスゴイ!」と、よくいわれていたそう。「日本人は自分の子どもが、とてもとても大事で他人に預けられないものなのに、そんな人達の信頼を得られるなんて!」ということのようです。
なにか少し誤解も含んでいるような気がしますが、日本では預け先で何かあった時、そこに預けていた親も責任を問われる風潮があります。「大事な子どもを人様に預けていた親が悪い。子どもは親の手元で育てるべきである」という思想が強調されて伝わり、「子どもが大事すぎて預けられない」という解釈に至っているのかなと思います。なんとなく違和感を感じつつも、フランスにおいて日本人はそのようにみられているのかと新鮮でした。
この「信頼」を、今後タタさんに子どもを預けようか迷っている親御さんにつなげるために、タタさんの推薦文を書こうと考えています。そこで、タタさんが教えてくれたことを振り返ってみたいと思いました。

人種の多様性にふれる

タタさんは最大4人同時に預かれる免許を持っていますが、常に3人に留めています。初めの1年目は1歳年上の白人と黒人の男の子ふたりと一緒でした。2年目は彼らが幼稚園に上がってしまったので、新たに1歳年下のこれまた白人と黒人の女の子ふたりがやってきました。そこに加えてタタさんは、北アフリカのアルジェリア系。西洋風の目鼻立ちで、肌の色が濃い容貌です。様々な肌の色の子どもたちを預かっているため近所で、「ベネトンチーム」と呼ばれていました。ベネトンというファッションブランドの広告は、いつも人種の多様性をみせるため、白人、黒人、アジア人のセットなのです。

画像1

初めてタタさんの家に面接でお邪魔したときは、アラブの独特な雰囲気の部屋に圧倒されました。それを察知したのか「私はフランスで生まれ育って、預かっている子どもたちもフランス文化で育てます。童謡や絵本もちゃんとフランス語のものですよ」といっていたのが心に残っています。

フランスでアルジェリア系の人は、「母性が強い国民性」という印象があるのですが、確かにそれを感じる子ども好きなオーラがありました。加えて、日本同様の室内土禁文化の清潔感は、土足が標準のフランスにおいて貴重な存在。娘が食べてきたタタさんの手作りのゴハンも、時々異国情緒を感じるものもありました。娘はラム肉やクスクス、レンズ豆などが大好物になりました。またラマダン後のパーティー用のムスリムのお菓子をいただくことも。fleur d'oranger(オレンジの花)と呼ばれるエキゾチックな風味の美味しさを知りました。

この様々な文化が混ざり合う環境は、日本人の我が家にとって、非常に得難い経験になりました。娘にとっても、肌の色に対する違和感や、異文化への抵抗感をを持たずに育つ基盤になっていくような気がします。

画像2

小さい集団生活

ベネトンチームは毎日、近所から遠くまで、2、3ヶ所の公園や児童館を遠征していました。お陰様で娘は健脚に。還暦を過ぎたタタさんは社交的でみんなのおばあちゃん的存在。よく他の保育ママさんたちと組んで、色々とイベントを企画をしてくれました。体育館で場所を借りて身体を動かしたり、児童館で仮装イベントを行ったり、少人数保育でありながら、子どもたち同士がより多く関われる機会をつくってくれました。また、その楽しげな日々の様子は、携帯で撮影されて送られてきました。

一日をどのように過ごすかというルールはないので、保育ママさんによっては誰とも関わらずに、部屋に閉じこもりがちになることもあります。私が面接をした人の中には「私は公園が好きではないので、基本家にいます」とハッキリいう方もいました。正直で悪くないなとは思いつつも、子どもを保育する部屋にあった大きなテレビの存在が気になりました。

「子どもに対して心配しすぎることはない」

タタさんは「子どもに対して心配しすぎることはない」とよく口にしており、私が少しでも疑問や不安を感じたら遠慮なくいえる雰囲気をつくってくれていました。私自身、なかなか細かい親だったと思いますが、いつも快く聞いて対応してくれました。

娘はとても良く寝る子なので、赤ちゃんの頃はずーーーっと静かに寝ていました。「ちゃんと生きているか、何度も何度もこまめに確認しないと不安で仕方がなかった」と。タタさんは本当に細かいところまでよく気づいてくれるのですが、「私は極度の心配性なのよ」と笑っていました。

4人の息子を育て上げ、保育ママをかれこれ20年している人でも、慢心することなく気を張っている姿は見習わねばと思います。日々の生活の中で、どういうことを気をつけたら良いかをプロの目線で教えてくれたことは、母親初心者としてありがたかったです。一方で、経験があるからといって偉ぶることなく、「私もわかっていないことがあるので、教えてもらえたら助かるわ」という好奇心を持って聞く姿勢も見習わねばと思いました。

子ども目線のアイデア

タタさんはアイデアマン。子どもが何かうまくいかなくなったとき、子どものキモチを想像して工夫してくれました。
娘と一緒に預けられていた男の子ふたりは、娘より1歳年上。お昼寝は、男の子達は同じ部屋、娘だけは別の部屋で寝ていました。いつも娘が先にベッドに連れて行かれ、その後に男の子達が別の部屋のベッドに行って寝るという流れでした。あるときから、娘がお昼寝をしなくなってしまったそう。
そこでタタさんは考えました。娘は「自分のいないところで、実はみんなが楽しく遊んでいる」と疑っているのではないかと。試しに先に男の子達がベッドに入る様子をみせたところ、納得して寝るようになりました。私だったら、早く寝なさい!と一喝してしまいそうなところを、よくぞ娘の気持ちを汲み取ってくれたなぁ、と感動。

また、保育園に行きはじめてから保育士さんに「この子はベビーサインができるのね」といわれ、タタさんが教えてくれていたことを初めて知りました。ベビーサインとは、手話のようにジェスチャーで意思疎通をはかるものです。フランスでは言葉が拙い子どもでもコミュニケーションがしやすいように、保育の現場ではベビーサインを取り入れることが推奨されているそうです。親の私も知らないうちに娘は色んなことを習っていたのだと、あとから感謝が止まりません。

実は稼げる保育ママ業

保育ママさんは、移民系フランス人が多い職業です。移民系の仕事というとあまり稼げない印象があるかもしれませんが、都市部の保育料は子ども一人あたり月10万円前後、最大で4人の子どもを同時にみることができるので、稼ぐ人で40万円程度の月収になります。保育ママは国家資格で、働くママが多いフランスにおいて常に求人があります。人様の子どもを愛情を持って育てられる人で資格さえ取れれば、それだけの収入が見込めるのです。もちろん、5週間の有給休暇も保証されます。日本の保育士事情と比べると、給料水準や待遇がずいぶん違うことに驚きました。フランスで保育ママの資格を取って働いている日本人の方もいます。

これからもつながっていたいご縁

最後の日、タタさんが「先週の週末は、私が保育ママになって最初に預かった子が食事に連れて行ってくれたのよ。彼はもう20歳過ぎ。これで終わりじゃなく、こんな風に今後も時々連絡を貰えたら私はとっても満足よ」といってくれました。
保育ママさんとの関係性は、人によってだいぶ違うようで、子どもが成人して結婚式に呼ぶほどの仲になる人もいる一方で、なにかと不満を持ちつつも頼まざるを得ない状況という人もいたり。ケンカ別れや、ルーズで解雇、ということも珍しくありません。
我が家はとても良い人に巡り会えたのですが、その分、別れが辛い…。何かできることはないかを考え、今まで一緒に預けられていた子たちの家族を全員呼んで、タタさんを囲む週末ピクニックをすることにしました。出身国が様々な家族がそれぞれ持ち寄る、各国のゴハンが楽しみです。

今のところ、娘は「タタさんちいく。保育園いかない」といい、毎朝ギャン泣きの日々。タタさんちで喜んでバイバイしてくれていたことが、どんなにありがたいことだったかを痛感しています。

どうすれば良い保育ママさんに出会えるの?と思われた方、「フランスで自分たちにあった保育ママさんに出会うために:20の質問」で、面接の際の質問事項を書いているのでよろしければ。

今までのタタさんとのエピソードはこちらにあります。



もし面白いと思う記事がありましたら、興味ありそうな方にご紹介いただけたら、とっても励みになります!記事のシェアが一番のサポートです!