第1章では、心を理解する為の基礎知識とも言える意識・無意識や、ゲシュタルトという心の持つ不思議な構造、心理学の始まり、人格との関連などをお伝えしました。
これから第1章をお読みになる方は、先ずこちらからご覧下さい。
その続編となる第2章では、心は何に反応し、どのように動くのかという“動く心”について、書いていきたいと思います。

第１章の単体記事はこちらをご覧下さい。
単体「こころの教科書～私を知る旅～第1章」

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【脚注について】
グレーの背景となっている部分は脚注として、ご興味の深い方へ向けて専門的な情報などを載せております。このテキストを読んでいく上では、読まずとも大きく影響ありませんので、読み飛ばしていただいてもかまいません。

心は動くの？

人によっては、心が動くという表現は、真新しい言葉かもしれません。

それはきっと心について、性格や人格、普段から抱えている気持ちなどという感覚で眺めているからこその感覚なのだと思います。

そして実際のところ、心は動きます。

その意味と理由は、「心は反応を示すから」です。

ただし、人の心は物理的な存在ではありません。

ビリヤードのように突いたからと言って前に進むとは限りませんし、石を投げた時のように綺麗な放物線を描いて落ちるようなものでもありません。

その理由の大きな一つ。

それは第１章で取り上げた通り、経験によって培われてきた“記憶”がその“動き”に大きく関連しているからです。

そもそも私たちは心にどうやって、それぞれの違う景色を持つようになったのでしょうか。

そして何が心に反応を与えるのでしょうか。

反応した結果、心はどうなってしまうのでしょうか。

心の動きとそれの与える影響がわかれば、私たちはもっと自分の心を扱えたり、他者の心理を理解したりできるかもしれません。

この章では、心の動きについて、詳しく触れていきたいと思います。

包丁を持った父に馬乗りで襲われた娘

ある日、一人の相談者が筆者の元へ訪れました。

彼女は言った。

「仕事をしていく上で、“人が怖いこと”でうまくいきません。なんとかして直したいんです。」

筆者は、その症状がいつから生まれたものなのかについて尋ねた。
相談者は答える。

「いつからそうなったのかハッキリはわからないのですが、父とのことが関係しているような気がします。」

お父さんと、彼女には、当時いったい何が起きたのか。
詳細を尋ねてみると、彼女が小学生の頃にまで遡った。

「『お前を殺して俺も死ぬ！』と言って、包丁を持って飛びかかってきたんです。まだ小さかった私は、避けられる筈もなく、そのまま馬乗りになられました。なんとかして脱出はしたのですが、それ以来、人が怖くなったような気がします。」

筆者がトラウマケアに集中して取り組んでいた当時、こういった事例は後を絶たなかった。

筆者は、「少し勇気が居ることだが、当時の記憶を思い出して対処する手法でセラピーを実施すること」を提案、彼女はそれに応じた。

筆者が詳細を思い出すようにゆっくりと声をかけ、徐々に彼女の中でその映像が再生される。

彼女は急な大粒の涙を流し、荒い息で大きな嗚咽を見せながら、「やめて！お父さんやめて！」と繰り返し始めた。

あまりに苦しそうなので一旦中断。
筆者は「やめることもできること」をあえて伝えるが、彼女は強い眼差しと共に、続けることを決意する。

当時、そこには何があったのか、逃げずに見続けることを再度提案する。

２回目の彼女には、もう静かな涙しかなかった。
ブレずに、ただじっと記憶を思い出しているようだ。

少し時間が経ち、「そうか！そうだったんだ！」と小さくもハッキリとした声が部屋に響く。

「あのとき、お父さんも泣いてたんです。仕事も、お母さんともうまくいかなった。父も行き詰まってたんだと思います。包丁を本当に振り下ろす気はなかった。いや、できなかったんだと思います。」

恐ろしいようにしか語られなかった当時の記憶。
彼女は１回のセラピーを通じ、どうやら違う印象を持ったようだ。

「なんか強くなれた気がします。今日のことは忘れません。」

そう言い残し、彼女はカウンセリングルームを去っていった。

後日、彼女からメッセージが届いた。