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“アフター育休”どうする問題/『男コピーライター、育休をとる。』第11話を語る

僕(魚返洋平)の著書『男コピーライター、育休をとる。』がWOWOWでドラマ化され、7月9日から放送・配信がスタートした。
主人公・魚返「洋介」を瀬戸康史さん、妻の「愛子」を瀧内公美さんが演じている。
ノンフィクションエッセイである原作にドラマならではの脚色や創作が加わり、もうひとつの魚返家の話が誕生した。まるで平行世界に転生した自分たちを見るような不思議な感覚だ。

このnoteでは、「原作者 兼 視聴者」の視点で、ドラマの各話に沿って原作(実話)との比較を楽しみつつ、ちょっとした裏話なども話していきたい。ネタバレというほどのものはないけれど、一応、各話を観た後で読まれることを想定しています。

#11  育休から戻ってみたら

ドラマ『男コピーライター、育休をとる。』も、とうとう終局を迎えようとしている。テレビ放送の最終回にあたる第11話と最終話では、育休を終えたあとの洋介と愛子が描かれる。

自分の原作を読み返してみると、育休をテーマにしたエッセイでありながら、全体の約半分が「育休を経た後」の話に割かれていることにあらためて気づく。それは当然といえば当然で、育休それ自体よりも、そのあとにつづく(そしていまこの瞬間もつづいている)日常こそが自分にとっての現場だからです。

第11話「育休から戻ってみたら」は、原作でいうと【第9章 育休から戻ってみたら(前篇)】【第10章 育休から戻ってみたら(後篇)】が下敷きになっている。

世の中的には、育児休業から復職したら職場で冷遇された、ハラスメントの被害に遭った、というケースをまだまだ耳にする。それをドラマに盛り込めば劇的な葛藤もつくりやすいのだろうが、劇中で主人公の洋介はそうはならない。原作者の僕が、幸いにもそういう目に遭わなかったらである。

カマチ、千木良部長、浜崎CD(クリエイティブディレクター)などなど職場の面々があらためて登場するこの回、視聴者の視点で見てどこかホッとする部分がありませんか?
これは僕が6カ月ぶりに仕事に戻ったときに感じた気持ちにも近い。会社に通う生活も悪くないな、と思えたりもしたものだ。

ドラマがフォーカスする葛藤はあくまでも、共働き夫婦である洋介と愛子のほうにある。前回のコラムで書いたように、このドラマの本質はいわば「魚返夫妻、育休をとる。」だからだ。

ただ、実際のわが家では、先に僕だけが復職。保育園に入園するまで約3カ月間は、妻ひとりだけの育休期間だった。2018年の春に娘は保育園に入り、妻も復職し、共働き生活が再開した。

それ以降、最初はこのドラマのように、保育園の送りと迎えをそれぞれ僕と妻で分担していた。でも、それから半年も経つころには、基本的に送り迎えの両方を僕が担当するようになっていった。
時短勤務の妻よりも、フルタイムでありながらスーパーフレックス勤務(詳細は原作を読んでください)の僕のほうが、柔軟に動きやすいことがはっきりしてきたからだ。

バスタブの魚たち

そしてたとえば、子どもが熱を出して保育園から呼び出されたとき、どちらが迎えに行くのか? ドラマと同様、その都度その都度できるほうが対応しようという方針ではあった。が、実際にやってみると、なんだかんだでワークスタイルの柔軟な僕がそれを担うケースが、どちらかというと多くなった。

保育園から連絡を受け、娘を迎えに行く。小児科や耳鼻科に連れていく。待合室で待ち、診察を受け、調剤薬局でクスリをもらう。翌日のために「病児保育施設」を予約する。翌朝ふたたび病院に連れて行き、診断書をもらい、病児保育施設へ送り届ける。などなどを、やることになる。まあ、なんとか仕事を調整して。
妻に「私がなんとかしようか?」と言われても「いや、俺がやるから大丈夫」と意地を張るくせに、僕も出来た人間じゃないので「はー、結局また俺か」と溜め息をつきながらやったりすることも、正直言って、ある。

劇中で、「会社、大丈夫?」とパートナーにケアされて、「大丈夫、大丈夫」と強がって答えてしまう愛子の立場もだから、自分に心当たりがあるものだ。そうか、洋介にも愛子にも、僕が含まれているのだった。

バスルームの場面、いいですね。2匹の魚(返)がたわむれるような。
現実にこんな体験はなかったけれど、映像化の喜びって、やっぱりこういうところにある。
これを観ながら僕は、映画『ビッグ・フィッシュ』(2003年 ティム・バートン監督)のバスタブのシーンを恐れ多くも思い出していた。バスタブの老夫婦。僕たちもいつか、ずっと年をとったあとであんな風になれるだろうか?

このドラマの放送期間中に発表された最新データによれば、日本の男性の育休取得率も、2020年度についに12.65%に達した(厚生労働省「令和2年度雇用均等基本調査」)。いまや、育児や家事をやりたくないという人よりも、

「仕事もいままでみたいにちゃんとやりたいけど、家事と育児もちゃんとやりたい」

(WOWOWオリジナルドラマ『男コピーライター、育休をとる。』 第11話「育休から戻ってみたら」より)

この洋介のセリフと同じ思いを抱く人が男女問わず多いと思う。僕だってそうだ。

それでも復職して以降、仕事と家庭のいい感じの両立、いわゆるワークライフバランスというやつは、すごく難しい。
育休を終えて3年半がたったいまでも、僕にとってこれはままならないテーマのままだ。
実際に復職してからどんな感じでいまに至るのか、別のところでもいろいろ書いているので、よかったら読んでみてください。たとえば以下の記事も、そのひとつ。

第11話の最後にひとつ余談だけれど、脚本の細川さんが、浜崎CDのセリフに盛った「7万円のステーキおごれよ」の毒も見逃せない。こんな時事的ブラックジョークにも、2021年に書かれた脚本であることがしっかり刻印されていると思う。

さてさて、次はとうとう最終話です。

(つづく)
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