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原発事故汚染地帯を歩いて考えた   避難解除されたからといって      小中学校を再開する必要があるのか

 いきなりで恐縮だが、こんな言葉から始めよう。

「人々を動かす一番重要な要素は、事実ではなく認識である」。

 これは、私が米国コロンビア大学の大学院で国際政治学を学んだときに、2年間のコースの最初の授業「国際関係論の基礎概念」の冒頭でジョン・ラギー学長が言った言葉である。この言葉を聞いたのはもう26年前の1992年だが、その後、国際政治に限らず、国内政治でも経済でも、現実をどう理解するかを考えるとき、この原則は外れたことがない。

 福島第一原発事故で放射能汚染を浴びた地域への住民の帰還をめぐる議論を見るたびに、私はこの言葉を思い出す。

 その意味は、本文中で後ほど詳しく説明する。

 その前に、この新聞記事をご覧いただきたい。2018年5月28日付の福島県の地元紙「福島民報」の記事である。社会面のトップ記事だった。

見出し:震災7年・ふくしまを歩く 再開の葛尾小 児童の声 復興象徴 村民の心 前向きに 

前文:葛尾村の葛尾小が4月6日に村内で再開してから間もなく50日を迎える。東日本大震災、東京電力福島第一原発事故から7年2カ月余り。村内に響く児童の明るい声は、復興が進む葛尾の姿を象徴している。小学校の一日に密着し、子どもたちの表情を追った。(本社報道部・伊東 一浩)


 22日午前7時、三春町のJR三春駅に葛尾村のスクールバスが到着した。避難先から学校に向かうための貴重な足だ。同町内の災害公営住宅集会所を回り、小学生、中学生を次々と乗せる。車内では学年の垣根なく会話が弾む。

 約45分で車は村内に入る。村に帰還している子どもたちを乗せて程なく、学校前に到着した。「毛虫がいるよ」「アリと追い掛けっこしてる」。バスを降りてから学校まで歩くわずかな時間も、児童にとっては発見の場だ。昇降口には「おかえりなさい」というメッセージが掲げられていた。

  震災前の2010(平成22)年5月1日時点で68人だった葛尾小の児童数は、現在7人。学級は2学年ごとに2人から3人で一クラスを編成している。教科によっては一つの教室の前方と後方に児童が分かれ、教師二人で授業をする。児童と教師が常に会話をしながら授業が進んでいく。遠藤裕一校長(48)は「一人一人とやりとりができので、濃密な教育となっている」と胸を張る。

「分からないことがあれば先生にすぐ聞けるし、勉強が楽しい」と話すのは六年の渡辺さくらさん(11)。震災後に葛尾小が三春町の旧要田中で再開した2013年4月にたった一人の一年生として入学した。小学校の最終学年を迎えた今年、待ちに待った村内で学校生活を送れるようになった。「村の人はみんな優しいし、生まれたところで卒業できるのはうれしい」。入学してから5年。後輩を引っ張る立派な最上級生に成長していた。

 この日は、27日に同校で開かれる村民運動会を前に、幼稚園、小・中学校の合同練習が行われた。美しい自然に囲まれた校庭を子どもたちが元気に動き回る。二年の山崎陽向(ひなた)さん(7つ)は「葛尾はきれいで、すごくいいところ。走るのが好きだから運動会が楽しみ」と声を弾ませた。

 少人数教育の利点がある一方、同年代の他者と触れ合う経験が少ないのが課題だ。同校は村外の小学校との合同体育を実施するなどして、交流の場を設けている。小野田敏之村教育長(61)は「同じ年頃の多様な考え方を知る機会をつくっていきたい」と話す。

 子どもたちの存在は、村民の心を前向きにしている。学校近くに住む山田敏子さん(82)は「本当にかわいくて…。洗濯物を干していると『おはよう』って手を振ってくれる」と目を細める。篠木弘村長(67)は「子どもたちの声が聞こえると明るい気持ちになる。村ぐるみで育てていきたい」と語った。

 私はこの記事を一読したとき「子どもたちが戻ってきたのか。それはよかった」と思った。しかしなぜか「あれ?なんだか変だぞ」と違和感を感じた。そしてもう一読して、腰が砕けた。

「ウソは書いていない。しかし、本当のこと(現実)も書いていない」という、私が著書「フェイクニュースの見分け方」(新潮新書)で指摘した通りの、新聞テレビの悪癖が例示されている記事だと思った。

 この記事の何がおかしいのか。

 まずは、この記事に書いてある「事実」を拾い出してみよう。

(冒頭の写真は福島県飯舘村で再開した村立中学校の新しい校舎。2018年4月18日撮影)


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