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だから日本人はダメなんだよ

「緊急帰国!
日本にいます!会いたい方はぜひ」

SちゃんはInstagramに空港の写真と共に投稿していた。
彼女は学生時代から洋楽が好きで、時々海外にいた。
海外にいると言ってもほとんどは旅行で、2年前に念願の海外就職を掴んだ。

またみんなで集まりたいなあと思った。
私はグループLINEで女子会をしようとSちゃん含む6人メンバーに声をかけた。

夜に集まるのは難しいことから、Aちゃんの家で午後にお茶会をすることになった。
学生時代の仲間は結婚して子どもがいる子が多い。独身を貫く私とSちゃんは少数派だ。自然と親近感が湧いた。

「どうやって行く?迎えに行こうか?」
私はSちゃんと話したくて提案した。

「ありがとう!お願いします。」
気を遣われないテンポの良さが心地いい。

当日家の前まで迎えに行ったが、Sちゃんは10分遅刻してきた。
悪びれた様子はない。少しずつSちゃんのことを思い出してきた。

Aちゃんの家に入ると他のメンバーが既に到着していた。
子どもが預けられないという理由で2人欠席で合計4人。
私はいつものように持ってきた手土産を出した。誰かの家にお邪魔するときにお菓子を持ってくるのは習慣化していた。
Sちゃんだけ何も持ってきていなかった。

普段からよく会っている私に大きな話題はなく、話の中心はSちゃんの近況報告になった。

就職していた会社に契約を切られ帰国したこと。
ヨーロッパでの一人暮らし。
フランスやスペインなどを旅行して回ったこと。
マッチングアプリで出会った男の話。
ヨーロッパに行ってからも連絡を取り合っていた男の話。

地元でずっと過ごして3X歳になった私にはあまりピンとこないことも多少あったが、頑張って生きてきたんだなっと強さを感じた。
しかし、男の話をするSちゃんはしょうもなくも見えた。

「大人になったら付き合おうとかわざわざ言わないよね」
本人には言えないが、彼氏でもない男との情事を聞いて盛り上がっていた時期はとっくに終えている。かわいそうなSちゃん。

一通り話終えたSちゃんは、主婦たちの話を聞いて場違いな発言を繰り返した。

「MちゃんとYちゃんもさ、せっかくの集まりなんだから、旦那に子どもの面倒みてもらえないのかな?日本って遅れてるよね。」

「日本人って閉鎖的で考え方が柔軟じゃないんだよね。だから私ここだと生きづらくて早くヨーロッパ帰りたい。」

「英語が話せない日本人ばっかりで時代遅れ。世界から孤立する。」

「妹がさ、地元の同級生と結婚して実家の隣に家建てたのね?そんな人生つまらないよね。でも親もさ、家買うお金とか出してあげちゃって。私世界で頑張ってるっていうのに妹のが可愛いのかな。」

見かねたTちゃんがフォローのつもりで
「Sちゃんも大変だよね。分かるよ。」

「え?なにかTちゃんも悩んでる?旦那さんのこととか?」
Sちゃんは食い気味に愚痴を引き出そうとした。

「専業主婦させてもらってるけど、自分の自由なお金とかないし、やっぱり家族が一番になってるから気を遣うことはそれなりにあるよ。」
TちゃんはSちゃんの気持ちに寄り添うように努めた。

「それは旦那が悪いわ~。働きたいなら言った方がいいよ?
男は察してくれないよ?本音で話し合わなきゃダメだよ?
結婚して仕事辞めて専業主婦なんて日本だけだよ?」

私は思い出した。
Sちゃんってそういえばこんな感じだったな。
いつも日本や男を批判していた。
日本は排他的だ。個性を出すことが許されない、出る杭は打たれる。
男は女を下に見ている。
いつも文句を言っていた。誰よりも日本に詳しかった。
世界の195カ国のことを海外とまとめて賞賛していた。

しばらく海外に住んで、年も重ねてグレードアップしたSちゃんに私たちはお腹いっぱいになっていた。向こう20年会わなくてもいいかもというくらいに思った。

散々空気を読まずに自分の意見を言うところは海外に影響されているのかもしれない。彼女らしさなのかもしれない。

「海外に行ったら価値観変わった」

よく聞くが、Sちゃんの本質は変わってなかった。
学生時代から抱えていた家族や地元に対するコンプレックス見たいなものが垣間見えた。

日本の悪いところを並べ立てたって、日本に帰ってきてるし日本人なのだ。
海外の人からしたら外国人なのだ。
ちゃんと外国人価格で現地のひとより高い報酬を求められるし、顔をみて「ニイハオ」と言われることもある。


Sちゃんは私から見たら立派な日本人だ。
芯の食ったことを言えずに声だけ大きい説教好きのおじさんのようだった。
男に簡単に抱かれる、NOと言えない日本人だった。
自信がないのに自己顕示欲が強いこじらせ女子だった。

私にはSちゃんを家に送る任務が残っている。
Sちゃんが日本をもっと嫌いにならないように接待するよ、最後まで。
きっともう会うことはないでしょう。


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