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不自由な鑑賞

先日とある美術館に訪れましたが、展示会場の係りの人と僕との1つのやり取りから今日はこの文章を書いていくことに。

訪れた美術館は有名な建築家で非常に大きく、駅からの立地もいいので、休みの日には多くの家族連れや、おばちゃま達が訪れておりました。

展示はフランスのデザイナーの展示で、ミッフィーやマリメッコのような欧州のかわいいキャッチーな図案のポスターからか、とても多くの人で賑わっていました。

展示構成はなぜこの人がこのようなスタイルでデザインし、描いているのかということから、師匠のことや生い立ち、映像、クライアントの仕事のポスターを実寸や本物をかなり多くの展示しておりました。

あまりその人について知らずに訪れましたが展示自体は非常によく多くのことを感じ、刺激になりました。

ただあることをきっかけに少し、もやもやした気持ちで僕は美術館を後にしました。

今回の展示は実寸のポスターや現物のポスターとともに、各展示室のポイントごとにポスターの説明や経緯の文章が綴られていました。

文章は多くの人がわかるように言葉を明確にし、端的に伝えているとは思うのですが、僕は文章の中に出てきた『エスプリ』という言葉がわかりませんでした。

一度はわからずに流し読み続けたのですが、その『エスプリ』という文章が結構な頻度で使用されていることと、前後の文脈からも意味を推測してもかなり理解には程遠かったために、僕はスマホでその『エスプリ』という言葉を検索しました。

検索して簡単に意味を理解できるだろうと思っていたのですが、『エスプリ』という言葉はフランス特有の言葉らしく、日本語では端的に説明しにくいためにどのサイトを見てもなんとなくわかるという程度でしたので、少し時間をかけてその『エスプリ』という言葉の概念を調べていました。

そして、そのスマホで検索をしているときに、美術館の係りの方が僕にスマホを使用しないでください、と声をかけてきました。

館内は撮影や通話などは禁止ということは展示室の入り口のパネルを見たときに把握していたのですが、スマホの検索で注意されたので、僕もおもわず「パネルの言葉の意味が分からず検索をしています」と答えました。

係りの方は「スマホの使用は禁止しております。必要でしたら筆記用具をお貸しいたします。」と答え、スマホの使用を一切禁止していることを僕に伝えたのです。僕は少し困った顔をして(していたと思います)「わかりました。筆記用具は大丈夫です」と答え、『エスプリ』という言葉をちゃんと理解しないまま、その展示を全て見終わりました。

展示は全体を通しその『エスプリ』という言葉を知らなかったから、全く話がわからなかった、作品の意図がわからなかった、ということはもちろん全くなかったです。むしろ言葉もいらないくらいの明確なグラフィックに胸を打たれたくらいでした。

ただそれでは美術館に訪れる意義とまた違うのではないかと感じたのです。

文章で作者の思考や時代背景などを知りながら、その横にある作品を眺め、観察する、紐解いていく事が美術館としてのあり方で、醍醐味ではないのかと強く感じたのです。その『エスプリ』という言葉もフランス人作家として作品を鑑賞する上で意味合い的には大事な言葉の表現とも感じます。

もちろん今回のことは僕自身が『エスプリ』という言葉を知っていれば何も生まれない感情なのですが、果たしてこの展示に訪れた人の中で『エスプリ』という言葉をちゃんと理解している人はどれくらいいたのだろうかと。

館内ではスマホのメモすら使用できないので、係りの方は僕に筆記用具を渡すと言ってきましたが、前後の脈絡からの『エスプリ』を知るべきなのに、帰宅してから『エスプリ』だけを調べても、その文章にある本当の意味合いを知れない、あまりにも不自由な鑑賞になってしまうのです。

もちろんスマホを使用することで、マナーモードにしてない方や、ルールを守らないで撮影する人もいるかと思います。

ただそのような人を出さないためにルールを厳しく、さらに厳しくすることが本当にいいのかと…

僕自身もシャッター音が常に聞こえるような美術館よりは静かな美術館の方が好きです。観光客で多いごたついた美術館よりもゆったりと落ち着いて観れる美術館の方が好きです。

でも美術館に訪れるということがもっと色んな人にとって敷居が低くなり、訪れて欲しい場所であると思っています。

多くの人の心を豊かにし、刺激を与え、エネルギーを感じ、鑑賞者の想像を豊かにする場所にするためには、美術館を美術を愛する人の場所だけにしたくないと僕は思ってます。

美術館としての品質や、様々なよくわからないルールが美術館にはあるとは思うのですが、今のままだと何か時代に逆行した、美術の好きな人が行く堅苦しい美術館のままだなぁと…

今日はそんな不自由の鑑賞の話。

#美術
#美術館
#アート
#デザイン


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