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踵骨骨折奮闘記⑦

「全身麻酔」(約2900字)

さて、入院2日目です。
この日もなんやかんやと“闘い”がありました。それはまた別の機会にして、今回はオペ(全身麻酔との闘い)について書こうと思います。

14時ごろ
改めて先生にオペの説明を受けました。
「大人の骨は、1ヶ月くらいで骨が固まり始める。今はその準備をしているところ」
「歩けるように、体重の負荷がうまく分散されるように、かかとの骨の形を作るオペ。いかにいい形にするかが、私の仕事です」
「プレートを入れる方法は、傷が大きくなり神経を傷つけたり壊死したりのリスクがあるので、今回の術式を勧めている」
「だんじりで怪我した人、とび職の人などがこの術式でオペしたが、予後はほとんどの方が歩けてる」

やっぱり一つ一つ丁寧に説明してくれるので、私も納得しやすく、再度オペを受ける承諾をしました。とはいえ、やはり予後は気になるもの。
「オペ後、シーネが外れたら(3日はかかるはず)足首を動かしていい。それまでは、足首以外を動かして」
「退院までには、1-2週間くらいかかると思われる。松葉杖で動けるようになれば退院」
「退院後の移動は、しばらくは松葉杖。体重がかけられるようになるには、1ヶ月半は見といた方がいい」
「骨が固まり始めて、リハビリして、松葉杖が片方になったら自動車の運転もいけるはず」
「退院後も通院リハビリを続けてもらって、3割荷重、5割荷重と増やしていって、全治は、2ヶ月強かなと思います」

これも、しっかりと道筋をつけてもらい、『今日自分にできることは…』『明日こうしよう』など考えられるようになりました。本当にありがたいことです。
「今のうちから松葉杖には慣れておいてもいいですね。オペが終わってからもすぐにリハビリ始めますし」
と先生から思わぬ提案もしてもらいました。『二日目、それもオペ前から、リハビリ?』と驚きながらも、何もすることがないことに飽きはじめていたこともあり、リハビリを受けました。

15時ごろ
病室に理学療法士の先生が来られました。リハビリ室に移動して、痛めた右足のマッサージと平行棒や松葉杖による歩行練習を体験しました。右足の指が動くことと腕と左足の普段使わない筋肉が痛くなったことを覚えています。1時間ほどのリハビリでしたが、気分もリフレッシュできました。

その後、病棟の看護師さんから術前術後の処置等の説明を受けました。また、オペ担当の看護師さんもやって来られ、オペの直前や麻酔がかかるまで、そして、麻酔が切れるまでの流れを説明してくれました。一気に緊張が高まります。

16時半
ルーティンの検査。検温、血圧、酸素、それぞれ正常です。

18時
晩ご飯を食べ、痛み止めを飲みます。

19時-20時、
うとうとしたり、妻とLINEをして過ごします(この通信手段についてもまた別の機会に書ければと思っています)。

21時消灯。
昨日ほどの痛みもなく眠りにつきました。△△さんの音楽は鳴っていましたが、昨日ほど気になりません。昨日は余裕がなかったのかなと思います。

入院3日目
3時半
目が覚め、冴えます。オペのことが気になりその後は眠れません。スマホでCLの試合を観たり軽く体操をしますが、落ち着きません。全身麻酔は初めて体験することなので、“万が一”ということがあるのではないかと不安が増します。妻への手紙を書いて念には念を入れます。

6時
起床時間になり、時が動き始めます。

8時
絶食のため朝食抜き。

9時
看護師さんに連れられて大浴場へ。オペ前に身体を清潔にするためシャワー浴をします。いろいろ思考を停止して洗うことに集中しました(入浴についても別の機会で書ければと思っています)。

10時
検温、血圧、手術前準備(手術着に着替え、点滴)。安静にして過ごします。

12時前
車椅子に揺られてついにオペ室へ移動。手術直前に妻とわずかな面会。「ありがとう、行ってきます」「うん、待ってる」の短い会話を交わしました。

オペ本番
手術室は空気感が違いました。無機質、余計なものがなく、冷たい感じ。明るく、しかし、どこか緑色がかった空間です。まぶしいくらいの照明がベッドを照らしていました。周りには先生たちが勢ぞろいして私を待っていました。

『寒いな』
車椅子に揺られて手術台の側まで来ました。先生と昨日のオペナースが挨拶をしてくれましたが、緊張で何て返したか覚えていません。

『ついに始まる』
心拍が高鳴るのが分かりました。車椅子から立ち上がり、手術台に腰掛けます。大勢の看護師さんの誘導でベッドに横たわりました。

『やっぱ、寒いな。それとも緊張?』
看護師さんたちが手術の準備を始めます。「ベッドが狭いので、腕はこの台に置きますね」とされるがままにしていると、まるで十字に磔にあっているかのような格好になってしまいました。

『やっぱり、怖いな』
寒さと緊張なのか、自然と体が震えます。麻酔科の先生が「麻酔しますねー、ゆっくり息してくださいね」とマスクを付けました。

『このまま死ぬかもしれない。死ぬときってこんな感じ…なの…か…』

次の瞬間、瞼を開けられ、照明が眼に入りました。「上田さーん、終わりましたよー」と看護師さんが話しかけます。

『終わったの?』
だんだんと意識がはっきりしてきます。光、声、そして次に感じたのは、右足の痛みでした。

『あー、最初に感じるのって、痛みなんや。痛みが一番なんや』
この後、迎えに来ていた病棟の看護師さんたちにベッドに移されて、ベッドのまま病室へ向かったようです。ほとんど覚えていません。

14時5分オペ終了
手術室を出ると、妻が待っていました。「ただいま」「おかえり」と短い会話をして、病室へと戻っていきました。

事前の説明の通り、オペ後はぼうっとしていました。点滴、酸素マスクもしていたので、ずっと安静にして過ごします。暑く、気分も悪かったことは覚えています。
オペ後、看護師さんたちが献身的に看護してくれました。何度も足を運んでくれて、酸素濃度のチェックをしていきます。しばらくして酸素マスクが外れ少し楽になりました。それでも、ぼうっとしています。
ただ、点滴のラインを取る手際が悪く何度も刺されたり、「チクッとしますね、指先痺れないですか」の確認が無かったり、点滴の管をベッドの柵にはさんでしまって流れなくなったり、腕を締めるゴムを病室に置き忘れたり…ということがあり、『なんだかなー、大丈夫かなぁ』と思いながら過ごしていました。

18時
晩ご飯をいただきます。普通食でした。少しだけ食べにくく、『絶食、オペ後の食事としてはいかが?』などと思いながらも完食しました。

「全身麻酔はいったん死んで生き返るようなもの」と誰かに言われていたように思います。“死の恐怖”を乗り越えて生き返った私は、『なんだかなー、大丈夫かなぁ』『いかがなものか?』など、やっぱり文句や愚痴の多い人間ということが分かりました。

『生まれ変わったわけではないのね(笑)』
と少し恨めしく思い、

『でも、こんなことを言えるのは、生きているおかげ』
と感謝をして、この日は落ち着いた眠りにつくことができました。

(つづく)

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