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古本生活①

Kindleが手放せなくなった生活からこぼれ落ちた文庫本。紙ではけして追いつけない便利さを吊り下げてゆっくりと日常に入り込んできた電子書籍が生活の一部になるのにそう時間はいらなかった。空っぽになった黒い本棚。それは高校生のときに購入したものだった。全体的に埃で上塗りがされ、壁側に長らく置かれていたせいもあって背面板は湿気で歪んでいる。指先で天板の埃を拭うと底が見えない水溜まりのよう黒が際立った。そこに蓋をするように私は粗大ゴミシールを貼った。

とかなんとか言ってもコストパフォーマンスの点では紙が優れている。いや紙というより本、本というより古本という意味で優れている。
やはりいつ何時何歳になってもBOOKOFFの¥100コーナーは輝いて見える。読書家を自称する身分のくせして経済サイクルに製作者本人がすっぽり抜けている中古市場の肩を持つのはいかがなものかと思うが、街灯に群がる夏虫のごとく¥110コーナーに足が引き寄せられてしまう。まあそれは貧乏精神の本懐に従っているのあろう。しゃーない。

これだけ買っても990円。やはりブックオフ侮れない。

今回購入した7冊のうち既読は3冊。
東野圭吾の『時生』『手紙』は処分シールが貼られた本棚に昔置かれていた一冊だった。この前、久しぶりに重松清の『流星ワゴン』を読んで「ひょえ〜高校生の頃と全然感想変わってて驚き〜」だったので、あらためて手元に置いておこうと思った2冊だ。ふとその2冊も『流星ワゴン』も母から勧められたものだったなと思い出した。
『消滅都市』は逆輸入と言っていいだろう。Kindleで読んで面白かったので本として向かい入れた。電子書籍の唯一の欠点は他人と貸し借りができないことである。気に入った本はいつでも知人友人に紹介できるようにこうやって手元に揃えているのだが、購入後その本たちが外の空気を吸う機会は一度も訪れていない。だって周りの奴ら全然本読まねぇし…

『BUTTER』は平積みからたまたま手に取り、あらすじが面白そうだったので、『私の男』は直木賞を死ぬまでに読破しようキャンペーンの一環で、『十角館の殺人』はずっと高価な古本だったが¥220で並んでいたので、『オーバーロード3』はシャルティアの限定表紙が可愛かったので購入した。なかなか充実した出会いがあった。

また近所の古本屋にも久しぶり足を踏み入れてみた。

どちらも¥1000。
またどちらも旧字で書かれていて大変読みづらい

三島由紀夫の作品は一切Kindle化しておらず、また文庫化されていない短編もたくさんあるため古本屋では真っ先にマ行から探している。
『三島由紀夫研究』に関しては改訂版が現在でも販売されているが、初版でありやはり三島が生きていた時に書かれた作家論というのは大変興味深い。(今でいう村上春樹論みたいな?)
あまりにも割腹自殺というショッキングな最期のせいで三島の死後に書かれた研究は、結果論で三島を語ってるものが多く、「まあ死人に口なしっすもんね」とため息が出るものも多い。まぁ大体近現代文学史ってそういうもんなんだけど。

¥1000ちょっとで半月も楽しめる読書ライフは貧乏人の処世術でもあるが、そこに楽しみ以上の満足をしてしまうとそれこそ三島が言う、本だけ読んで現実を生きていない「文弱の徒」になってしまうので、ちゃんと飲みには行きますので誘ってください。
「本読むので忙しいでしょ?」みたいな断られる前提の誘いを受けるとマジ寂しくなるのでやめてください( ;  ; )

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