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食い道楽な君がスキ~『貧乏サヴァラン』年末年始に読んだ本

上流階級の人って、他人からどう見られているのかなんてまるで気にしないんだなぁ・・・と、妙な感想(ごめんなさい)を持って読みすすめたのが、森茉莉著『貧乏サヴァラン』。表紙もモダンでかっこいい…!

皆さんご存じだと思いますが、この方は、文豪・森鴎外の長女。

書き出しはこうです。

マリアは貧乏な、ブリア・サヴァランである。

『貧乏サヴァラン』より

そのあとも「マリアはダイヤ氷なしでは夜が越せない」とか「マリアは「ご苦労様」と自分に挨拶し・・・」と、一人称がマリア、マリア。

(あ、これもしかして自分(茉莉)のことをマリアって言ってる?いい大人がこの書き方はちょっと痛くないか・・・)と、正直なところ私なんかは思ったのですが、この自己肯定感ブチアゲ人生は、ご本人がこの世を去るまで続いたのだろうなぁと思う。

お茉莉は上等、お茉莉は上等と言い、私の顔も上等、性質もいい、髪もきれいだと、そういう讃辞を飽きることなく繰りかえし、繰りかえし、耳もとで歌うようにして囁き続けたことが原因である。

『茉莉流 風流』より

父・鴎外は特に茉莉をこのように言って可愛がり、叱るべき時には自分が叱るのではなく、妻に茉莉を叱らせたのだとか(ずるい父ちゃんだ)。

最後まで読み通して感じたのは、乙女度合が高いというか、ファンタジックな人だなぁ・・・というイメージ。

そして、出てくるもの全てが美味しそうでしかたがない(シュウ・ア・ラ・クレェムや葡萄酒やマロン・オ・ダンドン(七面鳥に栗を詰めたものらしい)など、いかにも上等なものばかりだが・・・。

読み始めは「良家のお嬢さんのおいしいご飯の話なんて、聞きたくもないやい~」と思っていたけれど、文章から漂ってくる香気と、森茉莉流の美学に酔ってしまって、次第に茉莉さんのことが好きになってしまったのには驚いた。

父はなんでも上等が好きで、上等な酒、上等な料理、上等な人間、が口癖だった。金はそう入らない人だったが何でもかでも上等が好きだった。
料理ではないが、私は大変に、上等、上等と言ってくれたので、私はおかげで本来の人間よりは上等に育った気がする。さて今夜は、伯林下宿のコロッケとトマトサラダでも作ろうか。

『味の記憶』より

父親の言葉を丸呑みにしてそのまま、ぬうと育った私が賢い子供でないことは認めるが、貧乏が書かれていなくては(生活がない)、という思想はおかしい。金のある生活も<生活>である。貴族小説もあっていいのではないか?

『茉莉流 風流』より

もう私、お腹いっぱい。ごちそうさまでした。


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