天の網と通行手形

朝、起きると歯を磨く
洗顔して、基礎化粧品のライン使いと日焼け止め
ざっくり髪をとかし、カチューシャで前髪を留め
冷蔵庫にある冷水を200ml飲む

リビングに向かい、メイクを始める
ファンデーションは
リキッドとパウダーの2つ使い
シミを作りたくないから

髪にオイルとミルクを混ぜたものを擦り込み
丁寧にドライヤーをかける

シャツとロングのマキシスカートを履いて
鏡で全身チェック

「私、何やってんだ⁈」

無職で誰に会うこともない
誰にも会わないのに習慣は根付いて
テキパキとルーティンを施す自分が
限りなく可哀想になり、泣いた

これと言った理由もなくクビになり
LINEには今も「僕が何をしたか教えてください」と連絡がくる
そんなの、私だって知りたいよ

就業規則は私が音読をして皆に聞かせた
だから
憶えている限りを振り返っても
私たちが何をしたのか明確な理由が判らない

神や仏の伝統に倣い
神や仏に見捨てられた

天網恢々疎にして漏らさず
私たちのような小さな虫は、天の網に引っ掛かり
自らの罪を知らぬまま、大きな制裁を受ける

世間様なんかそんなもの
これといった実績がないのに
美味しい利権にありつく

天の網は、社会通念上、赦されざる者には
通行手形を与えるんだとハナで笑った



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眠れない夜に