ちょっと違うの、流れた涙

案外、身体に染み付いた好き嫌いがあり
条件反射で手を伸ばすもの
肌が粟立つものとある

知人のご家族が他界されて3年
先日、線香を供えに訪問した折のこと

前もって訪問したい旨を連絡していたので
知人はお茶とお菓子を用意してくださっていた
気遣いが嬉しい

が!

お菓子は『モンブラン(以下、ヤツ)』
字面を見ただけで鳥肌が立つ
大嫌いなものランキング上位、本気でダメだ

仏壇に手を合わせ、招かれたリビングに入ると
『ヤツ』はお茶とテーブルに黙座している
反射的に食道や耳下から湧き出す圧迫感
知人が「どうぞ召し上がれ」と勧めてくる

ここは流石、接客のうめこプロ
故人を偲ぶ話題に出る、知人の近況を伺う
知人はご丁寧にお茶と『ヤツ』を勧めてくる
てか、どういう攻防戦だよ

次第に、私の目頭が耐えられなくなり
生温かいものが頬を濡らした

「うめこちゃんは優しい子ね」
違うよ、そこにある『ヤツ』が苦手なんだって
「そんなことないです、優しいとか」

控えめに涙を指で拭い
「そろそろ」と腕時計を見る
もう帰りたくてたまんない
なのに
「ケーキ、持って帰って召し上がれ」

私、どこまでお人好しなんだろう…
「ありがとうございます!」
込み上げる吐き気を飲み、知人宅を後にした




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